自宅の日常その10
トラブル等と言うのは日常生活は当たり前として仕事から恋愛から遊びからありとあらゆる物事において、ありとあらゆる角度からやってくる厄介者だがある程度の準備や確認で防げる場合と準備程度じゃどうしようもない場合が混在する。
例えば忘れ物なんかは確認でどうとでもなるし遅刻なんてのも早起きや五分前行動で防げるだろうが公共交通機関の遅延だとか、行った先が臨時休業だとかは事前に調べても解らない場合が存在する、臨時休業に関してはホームページ等で知る事は可能だが遅延に関しては余人が介在するため準備云々ではどうにもならない、進む信号が全部青だとか前から歩いてくる奴が道を空けてくれるだとか、常にタイヤの空気圧が適正でガソリンは満タンだとか、朝で始発駅でもないに余裕で電車の席を選び放題だとか、そんな全てが上手く行くなんてかなりラッキーでないと起こらず何かしらの部分で躓いてしまい何処かしらが上手く行かないものだ。
それでも基本的にそういう類いのトラブルへの対策はある程度経験を摘めば生まれてくるし対応策もある、電車やバスが遅延しているなら待ち合わせの約束があるならそれを伝えて遅れると言えば良いし一本早い電車やバスに乗る事を意識するなら仮に遅延しても大きな遅れにはならない、急な雨が気になるなら鞄の中に常に折り畳み傘を入れれば良いし怪我が気になるなら絆創膏程度なら財布に忍ばせるのは容易だ、しかし遅延どころか運休や傘が役立たずになる大雨、絆創膏程度じゃどうにもならない大怪我には対応できない。
これらを踏まえた上で、異能にも不可能は有る、そもそも異能にはそれぞれの限界が有るためその枠を越えた力を行使する事ができずコントロールができないなら対応可能な範囲はさらに狭まる。
異能は万能だが全能ではない、どれ程体や脳に染み付いていても咄嗟の対応が間に合わないなんてのはまま有るし本人だけで簡潔しないならどうしたって無理や不可能が出てくるのだ。
「いや、本当ゴメンって」
ウニャルニャーニャーとご機嫌斜めな鳴き声で己の怒りを表していて動物の意識が解る異能を連れてくるまでもなく『テメェふざけんじゃねぇぞ、ぶっ殺すぞ』とでも息巻いていそうだと飼い主や猫好きでなくとも解るだろう発露は下僕をタシタシと肉球パンチで胡座の膝を攻撃しつつの鳴き声が如実に表している。
「いや、でもほら、まさかソファの下から狙ったみたいに尻尾出すとか誰も思わないじゃん、だから痛み分けって、ゴメンなさい」
情けない言い訳を手に飛び付くと同時にガジガジと牙を立てて封殺して後ろ足によるキックも御見舞いする。
神ならぬ人の身では部屋に入った瞬間に家具の隙間から棚の中身の配置まで完全に把握するなんて芸当は一人暮らしでもない限りは不可能な筈だが神ならぬ異能の身ならば可能となる場合も有る、だからソファの下という猫からすると入ってくれと言わんばかりの隙間に愛猫が潜り込んでいる事はリビングの扉を開ける前から把握はしていた。
だが座ろうと足を踏み出したその先に狙ったようにニュッと尻尾が出てくると予測するのは難しく床まで数センチという距離だと回避も難しい、例え未来予知が可能でも常に使っているわけではないし何よりかなり精度が微妙となれば使うのは日に何度か明日や今後の天気を確認する程度、ソファに座るために使う筈もなく予想外の所から飛び出た尻尾を回避できずにそのまま踏んだ。
幸いにしてと言うべきか意識的な全力ブレーキの結果過重は全体重の一割以下、とは言えそれでも10kgに届かないくらいの重量が尻尾に乗る、猫からすると自分より重いのが尾に乗り掛かるのだ、そりゃあ怒りもする。
「何してるの?」
「尻尾踏んだらこうなった、俺は食い物じゃねぇんだがな」
「じゃあ康男が悪い、謝って機嫌取りまくって噛まれまくりなさい、どうせ死なないから」
「たまに思うけど俺の過激さとか苛烈さってお袋由来な気がしてくるな、ケセラセラ主義なのに割り切り過ぎと言うか」
「パパに似られたら陰気が増えるから困るわね、あの人遺跡とか前にしないと基本オフだから」
「雨の日は親父よりオフってると思うが?」
「あー、それで雨の日は空気重いのね、向こうで泊まる日はそうでもないけど」
「ただいまー、なんでお兄ユキちゃんに噛まれてるの?」
「尻尾踏んだ」
「あー、ほらユキちゃんそろそろ許してあげようよ、それに一応病院いかないとだし」
「余計に噛む力増したんだが? 甘噛みが血が出るくらいに強くなった」
「じゃあそのまま抱っこして病院まで運べば? 逃がさないようにバリア張るとかしてさ」
「それしかねぇか、せめて着替えたいが仕方がない、って事でお袋少し出てくる、飯は食うが病院の待ち合い次第で遅くなるかも」
「OKOK、とりあえず保険と後は診察券取ってくるわね」