自宅の日常その9
目が覚めたら知らない天井とか知らない奴の顔とか、事故や事件病気で搬送されてその記憶が無いならば経験した事がある奴は少なくないだろう、だが目が覚めたら青い空というのはキャンプにでも来てテントではなくハンモックか何かで寝落ちして、その上でその記憶を無くしているという健忘症を疑った方が良い状況か呑みすぎたかのどちらかで、その上で何故だか物凄い勢いで耳を動物に舐められているとなるともはや意味が解らなすぎる。
俺の記憶が確かならば昨日も普通にベッドで眠り、愛猫であるユキミは何時もの様に両親の部屋のカマクラ型の寝床に居た筈だ、合理的に考えると寝てる間に親父が俺を外に放り出して着いてきたユキちゃんが甘えてるって感じだがそのどこに合理が有るのかと問い質したくなる、いきなり息子とペットを外に放り出すって過程が意味不明過ぎるし意味がない、と言うか病院以外で外に出ない飼い猫を庭とは言え外に出すのはどうかとも思う、元から半外半中で育っているならまだしもペットショップで購入して以来ずっと箱入りだ、外で生きていけるかはかなり分の悪い賭けだろう。
さて、そろそろ現実逃避を止めるとしようか、流石にいきなり外に放り出される様な覚えはないし親父はいきなりそんな行動に移す様なタイプでもない、とすると他の誰かの意思による物だろう、とりあえず仰向けで寝ている訳にもいかないしいい加減耳がふやけそうだし起き上がってみれば物凄い大パノラマの荒野だ。
つまり寝てる間にアメリカとかに移動したと、そして目線を右下に向けると愛猫ではなく、なんだろうか形容するなら毛玉だな、子犬くらいのサイズでアバンギャルドな虹色の体毛を持つモップもかくやの毛玉、まともな視界が無いと断言できるのだが問題はそこではない、俺の空間把握が確かならばコイツ足が六本有るんだよな、そりゃあ子犬サイズのモップみたいな犬に虹色のカラーリングするくらいはかなりパンクな飼い主ならやりかねないが足を二本も増やすってマッドなサイエンティストでもやらないぞ、いややるかもな。
何にしてもだ、此処は何処私は男鹿松平兼守長倉源温羅神馬手方平之真典影康男Jr.とりあえず見渡す限りの荒野だな、人気は一切無いし地平線が見える先まで岩と土と木々の荒野、ざっと360度5kmの範囲に建物らしき物はなしか、こういう時は高い場所から見下ろして道とか川とか探すのがベターだな、道があるなら辿れば何時かは町に着くし川が有るなら下れば海だ、何より水の確保のために町を近くに作る、それが発展して今に至る仮にこの生物を証拠に異世界としても人が居るなら飲んで食わなきゃ生きていけない、ならば生活様式がどうあれ水辺の近くは栄えていると考えるのは自然で探すならばそこからだろう。
となれば後は浮かび上がるだけでその程度ならば容易い、さぁ町まで一飛びって所で何故か水中に居る、前後も左右も上下も解らず掴む物も無い中でもがき苦しみ無駄に手足をバタつかせて水を掻くが沈んでいるのか浮かんでいるのか進んでいるのか戻っているのかすら解らない。
こういう時は一先ず落ち着いて僅かに漏らした空気を見ればどちらが上でどちらが下かが解るしそれを追って行けば水面はすぐそこだ。だが邪魔をする奴は何処にでも居るもので足を持って引きずり込もうとするのっぺらぼうが
「ってんな訳有るか!」
「わっ、ビックリした、何いきなり」
「ん? え~っと、あー、ん?」
「なんでそんな所で寝てるのよ、ってかどんな夢見てたのよ?」
「いや、なんかデスバレーみたいな所で変な生き物に耳舐められてて気付いたら溺れてた、寝言とか言ってた?」
「寝言って言うか、そんな訳有るか!って飛び起きたわよ」
「マジ?」
「マジ、因みに耳舐めてたのは変な生き物じゃなくてユキちゃんね、30分くらい前だけど」
「ほーん、で、なんで俺リビングに居るの?」
「それは私が知りたいんだけど?」
「んー、あー、あっ、確か夜中に腹へってカップ麺食って部屋戻るのめんどくせぇからソファで寝たんだったか、そりゃ変な夢も見るわな」
「えーっと、夢占いだと溺れる夢は精神的に苦しいからですって、変な生き物はよく解らいけど」
「んー、なんか変な生き物ってのは印象に残ってるが具体的には、ちょっと待って思い出す、えーっと、なんかモップみたいな毛玉で虹色の六本足だったかな?」
「何それ怖い、そんなのに耳舐められてよく飛び起きないわね」
「まぁそんなのに食われてた可能性もあるわけだしサイズ的にユキちゃんと同じくらいだし、見た目はアレでも犬猫と変わらんと思う、ってかたぶん夢って気付いて無かったしな、顔をつねるとかもしてない」
禁忌▪夢オチ