外れた者の日常その1
人生は苦いか甘いか酸っぱいか、それとも塩っぽいか爽やかな香りがするのか、今まさに事切れる寸前の老人に聞いても答えは定まらないだろうが楽しいか苦しいかならばその歩んできた道程で苦しくも有り楽しくもありと一環しないだろう、瞬間を切り抜けばどちらにも転ぶ。
世界的なコメディアンはそれをフォーカスすると悲劇で俯瞰すると喜劇と捉えた、結局は見る側の問題で角度一つだと、故に不幸だなんだというのは他人なら蜜の味で己なら苦虫となり、それらをさらに外から見るならばきっと馬鹿馬鹿しいとなるのかもしれない。
「さて、お久しぶりだ何処かの某さん、先に言っておくが俺はお前さんに許しを与えるつもりもないし立場でもない、同時に糾弾もしないがな、それを許されるのは被害に有ってきた方だけで俺は巻き込まれて巻き込んだだけの部外者だぜ?」
「先輩、お願いが有ります」
半刻程時間を遡り、部室にて珍しくもお茶を嗜む訳でもBL小説や漫画に涎を垂らすでもなく難しい顔で黙っていたかと思えば突如として何時になく真剣に、極めて追い詰められた用に口火を切る。
「うん、なんだ後輩、暇してるから話くらいは聞くし大抵の頼みなら聞いてやれるが」
「珍しいわね、貴女が勉強以外で頼るなんて、まぁ良いわ、私達を好きに使いなさい」
「着いてきて欲しい所が有ります、詳しい話はそこで」
電車に揺られて一駅、学校からざっと40分程という寄り道としてはやや遠出と思える程度の時間を要するが物凄く遠いという訳でもない、普通に通学可能な範囲であり家から離れていくという面を除くならば常識的な範囲での寄り道とも言えるだろう、それは友人の家に寄ってから帰るのとなんら変わりない程度の距離でしかない。
そんな中で沈華は何も言わずに着いてきてはいるが二人して制服のままだし車も免許も持っているのだからそれを使えばよかったと今更ながらに後悔しつつもコレから先を思いさらに気と足取りを重くしていた。
「病院? 俺は万能だが全能じゃねぇぞ後輩、流石に病気を治すとかは無理だし俺の内臓欲しいってのも俺が死んだら間違いなく消えるから最終的には死ぬしな」
「元気になったと思ったらある日いきなり内臓がポカリと消えるって恐怖でしかないわね、あれでしょ日常生活取り戻したなとか考えてたら激痛でのたうち回って出血死するっていう、中世の拷問でもまだ優しいと思えるわね」
「でもまぁ止血とかはできるわよね? 後は心臓マッサージとか」
「そりゃあできるな、面倒だが心臓の代わりとかも可能だが流石に頭脳をそこにだけ割くとか面倒だし運動とかで酸素量増やしたくても心拍数の調整は無理だしな」
「常に一定の鼓動を刻む心臓ね、欲しいって人も居るでしょうけど、そもそも障壁と違って念動って寝てる間も稼働できるの?」
「さぁな、今晩試してみるが無理だったら寝ると同時に心臓止まるだろうさ、ペースメーカーとか人工心臓の方がまだ使い勝手が良いだろうよ」
ダラダラと受付を通り過ぎて毒にも薬にもならない事を駄弁る、場所が場所なため声は抑えているがヘラヘラしながらの受け答えと義理での返答は表情を固くしたままの緊張の極地に居るらしい深井を思ってか常の様にかの判断は難しいが普段通りというのは悪い事ではないだろう。