職場の日常その8
「先程入ったニュースです、本日午後13時20分頃、国際宇宙ステーションで活動中の宇宙飛行士板田挑さんが作業中の事故により現在行方が解っていません、宇宙開発局によると板田さんは本日正午頃よりステーション外作業のために遊泳していたところ何かの破片によってステーションと宇宙服を繋ぐロープが切断され、その煽りを受けて板田さんが吹き飛び現在行方が解っていません」
「えー、繰り返しお伝えします」
「悪いんだけれども、ちょっと私用で外すからその間お願いね、20分で戻るから」
「あの、社長、もうすぐ会談が有るんですが」
「そんなの待たせとけ、文句言うなら誰でも物理的に潰すって伝えといて、ちょっと知り合いがピンチなんだよね、ざっと400km上でまぁそこからさらに平面距離有るんだが」
「えっと、今のニュースですか?」
「うん、友人なんだよ数少ない」
「じゃあ、そういう事なんで後よろしく、大丈夫大丈夫、俺相手に文句言うような馬鹿は居ないから」
「よう、色男、元気そうで何よりだ、まぁ聞こえてねぇだろうが」
「とりあえず動いてるから生きてるよな? 単独宇宙遊泳記録作りたいなら言えよ手伝うから、後俺が個人的に半日近い記録持ってるから残念ながら今回はニューレコードになりそうにない」
「ん? あぁ、ジョーク言ってるっぽいがどうでも良いから速く助けろ? 流石は我が友、解ってるな」
「助かった、しかし知ってはいたがマジで生身でお前が現れた時は正気を疑ったぞ、お前のと俺の」
「ハッハー、安心しろ俺に正気なんてのは一欠片くらいしか存在してねぇから、とりあえず仕事有るんで帰るわ、お仲間によろしく言っといてくれ、後次に同じ事するなら事前に伝えてくれ、流石にニュース見て知るのは心臓に悪い」
「あぁ機会が有ったらそうしよう、次は火星辺りまで行ってくるよ」
「ところで、お仲間が信じられねぇ物見たって顔してるんだが宇宙飛行士としてどうなのよ、どんな時でも冷静にってのは必須だろうに」
「無茶言うな、俺と違ってお前に耐性無いからな、可能って事前に知っててもまさか要請すらなく飛んでくるなんて俺くらいしか思わん、後は君の御内儀とジョンソン君くらいか、いや深井君もかな?」
「あぁ、後輩ならさっき連絡来てたわ、早く助けに行けーって、前の二人はお疲れさんって来てた、助けるのアイツらの中で確定らしい」
「まぁほら、格ゲーの相手減るだろうからとか、バイク仲間減るからとか男の友情とか諸々でお前が動くという信頼が有るんだろう」
「以心伝心って奴かねお前さんも落ち着いてたし、こういうの後輩が知ると面倒なんだがな、まぁいいか、んじゃそろそろ行くわ会談すっぽかしてるから向こうさんを脅し……謝らないと」
「誤魔化せてないぞ男鹿、じゃあまたな、次は地上で、一杯奢るよ」
「ん、因みに新作今週発売だから、お前の持ちキャラ弱体化するらしいぞ」
「あぁらしいな、お前のもクソザコナメクジになるらしいじゃないか、一足先に新キャラ開拓してろよ俺はアイツと心中するから」
「ハッ、伊達や酔狂であんな鈍足使ってねぇよ、死ぬまでアイツで投げて投げて投げ飛ばす、ついでに吸う」
「お待たせしました、ちょっと急に旧友と親交を深めたくなりまして、で、なんのご用で?」
「失礼ではないか? 此方としてもあまりに態度が酷いなら今回の話は無かった事にしたい」
「んー、是非勝手にどうぞ、そういう事ならお帰りは彼方です、此方としては話を聞く聞かない以前に何で有っても聞くだけ聞いて儲け話でも面倒なら蹴りますから」
「貴方の言い種は喧嘩を売っているようにしか聞こえませんがまさか我が社と事を構えるつもりですか?」
「いや、俺ほどの平和主義も珍しい、喧嘩なんぞとてもとても、戦争なんてのはもっての他でやるとしたら蹂躙くらいですかね」
「は?」
「いやはや、会社規模で出られるとほんの数十人とこの程度の社屋しか持たない弊社と御社では天と地でしょう、ブランド力も歴史も勝る要素なんて皆無だ、ならもう物理的に潰すしかないでしょう、関係子会社まで更地にしてしまえばとりあえず敗けはない」
「脅しですか?」
「うんにゃ、そっちが事を構えると明言したように聞こえたので答えたまでです、目には目をが俺のポリシーなんで宣戦布告には宣戦布告でもって対応しますし一方的にやられるつもりは毛頭無い、言い種やら態度やらが悪かったのは認めますがだからって喧嘩だの事を構えるだの飛躍が過ぎる、となれば最初っからそのつもりと受け取っても仕方がないでしょう」
「それに、何故俺が御社のやり方につき合わないといけない? ブランド力やら顧客数やら満足度やら歴史やら、自分が不利でしかない土俵で正面切って争うとか馬鹿でなきゃやらないでしょうに、此方の土俵に引きずり込まないと勝てないなら引きずり込むし、闇討ち挟み撃ちしかないならやる、手段も方法も選んでいられないなら選ばない、それを卑怯だのなんだの言う外野はじゃあお前さんが正面切って相手をしてやれだ、勝った者が正義だなんて事を言うつもりは無いし弱肉強食ってのもどうかとも思うが俺と戦争したいならやり口は選ばないって事をいい加減学んでほしい、それとも法と国がお前さんを守ってくれるのか? そんな紙っ切れ一枚が銃弾だの刃を防いでくれるとでも? そんな訳ねぇよな、紙切れで防げるのはせいぜいが鼻糞くらいだ、俺と対等にやりたいなら神様って奴を連れてこい、その時は正面切って潰してやるから」
「さぁ、選ぶのは御社であり貴方だ、俺と事を構えるか、尻尾を巻いて逃げ出すか、それとも無かった事と商談を進めるか、他にも思い付くならお好きに」