旅の日常その6
「うわっ、熊居るし」
「おー、マジだ2mは有るな、ヒグマか」
「どうする? このまま走り去る?」
「見て行きたいなら止まるぞ? 危険は言わずもがなだし」
「折角だしツーショット撮って行きましょうか、アンタはバリア無しね」
「俺に死ねと申すか、別に良いがヒグマも食い殺したと思ったら復活とかビビるか喜ぶかすると思うぜ」
「熊のボーナスタイムで友人が食い殺されるの見るとかゴメンなんだが? 普通に写真だけ撮ろうぜ」
若者らしい蛮勇が蛮勇足り得ないのは間違いなく の異能故だが、野生のヒグマに近付こうなんて常軌を逸しているとしか思えないし専門家だろうと地元民だろうと絶対にやらない。
仮に飼い慣らされているのだとしても事前に準備してからだろう、少なくとも出会い頭でヒグマとツーショットとか檻に入っているならまだしも白線一つ隔てただけでは仮に考えても実行には移さないし百歩譲って安全な車の中からくらいだろう。
「意外と大人しいってか状況飲み込めてねぇのか?」
「まぁ人間がいきなり目の前で写真撮ろうとしてるって意味不明過ぎて腹減ってても情報処理追い付かないだろ」
「まぁ大人しい分には楽で良い、下手に人慣れすると地元の人に迷惑だし、いやまぁもう遅いかもだが、終わってから熊には悪いが少しばかり恐怖って奴を植え付けて人里に行こうなんて思わせなければ良いだろ」
「ちょっと浮かして逆さにで人間ってヤベェってなるか、野生動物だし意味不明過ぎて恐怖が勝つか」
「仮にそれでダメそうならその辺の木でもバキボキに壊すか障壁でドラゴン作って可視化でどうにかなるでしょ」
熊からすると堪った物ではないが下手に人慣れするよりはマシだろう、ただそれを言うならば安易に近付くなだがそれを可能としてしまう、だからと言ってやるなとも思うが写真を撮るくらいなら観光客でやる奴は多い、その方法が物凄く一般ズレしているというだけだ。
「OK、とりあえず最後まで大人しかったコイツには悪いが少しばかり恐怖を植え付けて狂気を見せ付けるとしよう」
「男鹿、恐怖はともかく狂気は常に出てるから安心しろ、俺が知る限りお前ら夫婦程狂ってる奴も居ない」
「そう? 私はコイツよりマシだと思うけど」
「むしろ君の方がヤバイよ菜慈美君、男鹿はまだモラルが有るだけ良いし君は手段も結果も加減無しだから」
「ハッハー、コイツに自重とか無理だしな、まぁ牙が他には向かないからまだマシって事にしておいてやってくれ、俺は優しいがそれが是では無いしな」
熊が上下にシェイクされている横でする会話ではないと他者が見たら思うだろうが幸いですにしてか不幸にしてか通り掛かる車やバイクすらないし民家は数キロか数十キロは離れている、見る者が居るとするならば道路の監視カメラとかだがこの辺りには設置されていないため三人と一頭だけがこの場の真実を知っている。
まぁ熊からしたら何時もなら全力で通り過ぎる筈のバイクが停まって、人が降りてきて何かしら声を出して、その挙げ句がシェイクだ、猟師にズドンとやられるよりは良いのだろうがこの生き物の底知れなさは嫌でも理解できる。
「さて、そろそろ行くか、釧路までまだ百キロ単位は有るしな、明後日までに着かないと仕事が待ってやがる」
「お互い時間が取れんな、俺も帰ったら講義三枚だ」
「私も戻ったらあの娘にスパルタ教育ね」
「どうなんだ後輩は、最近見れてないが」
「困った事に順調とは言えないわね、そろそろ本当に勉強大好きがり勉人間に改造しないと卒業できるかは皆勤賞取れるかと提出物出せるかね」
「まーた赤点ギリギリか、板田、お前も家庭教師やってみるか? 信じられないくらいにダメな生徒が居るんだが」
「ゴメン蒙る、前にテストの回答を見たが俺ではどうにもならん」