短編集その3
夏の日差しは何時だって燦々とジリジリと、まるでラクレットヒーターの如く肌を少しずつ焦がしていく、それこそ鏡で光を集めれば目玉焼きくらいなら余裕で焼けるだろう、良く晴れた日で有れば昨今の太陽の容赦のなさに黒い車のボンネットとか利用したならば余裕だろう。
まぁ半熟にはなりそうだが地域さえ選んで時間を掛ければ中まで火を通せるだろうし、ソーラークッカーなんて珍しくもない。
とまれ、日本の照り付けるような日差しと纏わりつく様な湿度のジメジメとのコンビネーションでまるでRPGの毒の様に体力と水分を奪っていく。
単純に暑いというのではない、外を歩くだけでサウナの如き状態が常態化するのが日本の夏のデフォルトで、海に囲まれているからそうなのか、南風がそうさせるのか、エアコンや車の排気のせいか、気象化学者でも連れて来たならば答えも解るだろうが知った所で涼しくなる訳でもなくマシになるなんて事もない、このコンクリートジャングルで亜熱帯のジャングルが如く蒸し暑さは皮肉にしてもできすぎている気もするが幸いにして実際のジャングルと違って猛獣が出てくるという事だけはない。
「アガっ」
そんな悲鳴とも嗚咽とも取れる声を聞いて、あぁまたかなんて感情しか沸かないくらいに慣れると言うのはどうかとも思うが毎年毎年飽きもせずに起こるとなると嫌でも慣れるし呆れもする。
「まーたやったよ、お袋怒るぞ」
「なんで毎年やるのに学ばないのかそこが解らない」
暑くなると冷たい物を求めるのは人の性でそこに人種も性別も年齢も関係ない、夏となればアイスの一つや二つ大人でも食べるし誰にでもお気に入りの物はある。
それは善哉をそのまま固めたとされるアイスで、曰く世界最硬のアイス、曰く数枚重ねたならばハンドガンの弾を止めるのも余裕、そんな風に言われるくらいに硬いアイスを冷凍庫から出して直ぐ様齧ればそりゃあ歯の一つも折れる、特に差し歯ならばバキボキとだ、おそらく全国の歯医者はこの時期に駆け込む患者に呆れと辟易をない交ぜにした感情を持っていてもオカシクはない。
何れにしてもだ、毎年毎年飽きもせずにやらかすというのは流石に擁護のしようもないだろう。
「おー、とりあえず古漬けと両方用意しておいたから持ってけ、後まだかなり若いが奈良漬けだ、近いうちににでも感想を聞かせてくれ」
「急で申し訳ない、ちょっと友達と晩飯食ってたらそういう話になってな、どうせ帰り道だしって」
「気にするな、孫の顔見れるってのは爺婆には祭りみたいなもんだ、頼られんのもな、友達に気に入ったらまた何時でも言ってくれと伝えてくれ、どうせ食べきれんくらい仕込むからな、お前は間違ってもグリーンカーテンにゴーヤやキュウリを選ぶなよ、地獄しか見ないから」
「いやうん、間違ってもクルミとゴーヤとキュウリは庭に植えねぇよ、て言うかそろそろマジで引っこ抜こうぜ、鈴子も一本か二本も残せば文句言わねぇだろうし」
「うーん、それはそうなんだが処理が面倒だしな、お前さんに頼めば早いし楽だがこういうのは勝手にやると植木屋とかがうるさいからな、近所付き合いも有るし早々簡単には行かないんだ」