ifその1外伝の2
「失礼、我が配下より情報が上がりました、人間の王が講和を考えていると流布しているようです」
水の四天王ウォルターが突然口火を切る、四天王の中でも諜報工作を得意とする部隊を任された彼はその特異な体質を使い遠方との通信を容易く成していてこういう場面での情報取得の早さは実績と信頼の高さが物語っている。
「此方ではなく向こうが講和を言い出すというのは解せませんが、しかし悪くない流れですな、あるいは彼の化け物の力は回数制限が有るとかで長期戦に持ち込みたくないという思惑が有るにしても此方からすると損はない、勿論喜んで調印に向かった所を囲んでグサリなんて罠も考えられますがその程度ならばまだ対応もできる、ただ流石に化け物に出て来られればどうしようも無いでしょうから向こうの真意を見切る必要は有るでしょう」
「とにかくさらに情報を集める様に指示を出しておきました、ただそろそろ日も落ちる、酒場での噂話が主になるでしょうし此方の方針は既に決まっていると言える、一度解散して明日の朝からまた会議というのでいかがでしょう」
「確かに夜通し顔を付き合わせても仕方がないか、明日には妙案が浮かんでいるかもしれんし一度解散しよう、皆急の集まりで疲労もあるだろうしな」
「皆おはよう、とりあえず昨日の夜に集めた情報を教えてくれ」
「酒場での話になりますが召喚された勇者は三名、その内一名が既に帰還したとの事です、ただその一名が件の化け物かどうかは不明、また講和の件については信憑性は極めて高いとの報告です、罠については現在も確認中との返答が有りました」
「過ぎ足る力と帰したか、暴れられてはと帰したか、それとも化け物だけで余裕と予備を残して一人帰したか、仮に前の二つならば陛下とスチャン様の弔いとして戦を続けるのは問題無いでしょうし勇者相手という点を加味しても勝機は十分にあると言える、ですが後者ならば問題しかない」
ウォルターの報告を受けてクレイが続ける、補給線の確保に尽力し砦の改修等も行ってきた四天王最古参で護りに関しては兄や側近をして自分をも凌ぐかもしれないと言われた男の言葉だ、蔑ろにはできないだろう。
「しかし今日にでも方針を固めて諸侯を納得させなければ講和の場合、間に合いません、限られた情報で決を取るか、諜報に命を散らす覚悟で城内へ忍び込み確とした情報を取ってきて貰うかしか無いでしょうな」
「下手に情報を取りに行っても印象が悪くなるだけだろう、兄ならば諜報員を生かし気付かれずに情報を集める奇策も思い付いたのだろうが、せめて少しでも情報を集めて昼までに決を取ろう、と言うか講和の線を進めておいて情報一つで変えるしかない、そもそも得られた情報の確証も取れないだろうしな」
フレイムの普段ならばありえない消極的とも思える言葉に返せたのはそれだけだ、正直に言って誰もハッキリとは口にしていないだけで講和は決定しているだろう、後は諸侯に話を通して素早く人属の王に持ち掛けるだけだ、その後に内部の争いは最小限に抑えてまた力を蓄えるしかないだろう。
少なくともお祖父様の代より続けてきた領土拡大と魔物の地位復権のための戦はたった一人の化け物の参戦で大きく方針を変えた、これまでも歴代勇者がその武勇で魔王を下しはしたがここまで追い込まれたのは今回が初めてだろう、過去の例は主に急襲から一気に王を討つ戦いで他への被害は意外と無かった、今回も同じような事は起こっているが規模が違いすぎる、今までなら質で押しきられても数や我らの身体能力で返せたし領土の維持だけならどうにでもなった、だが今回もたらされた被害と仮にアレを複数回行えたらという可能性だけで今まで通りには行かない、あんなものを見せられて戦いを続けようなんて気にはどうしたってなれない。