ifその1外伝の1
我々は戦に敗けた、いや、これは正確ではないだろう、戦にすらならなかった、伝え聞く限り行われたのは蹂躙だ、一方的に、一切の反撃を許さず、力付くですらなく圧倒された。
それも、宣戦布告を受けてからだ、十分に対応する時間は有った、有ったが何かができたとも思えない、相手が悪すぎたとしか言えず、見通しが悪すぎたとしか言えない、やって来たのが普通の勇者だったなら兄が側近が遅れを取るなんて事は無かっただろう、この場に揃う四天王全員でようやく互角という猛者にして王佐の才も高い側近、その側近をして俺と四天王と自分を合わせても足りぬと言わせる程の武と治世と知に長けた兄がアッサリと逝った、生き残った文官やメイド達の話を聞くとやって来た者、人の姿はしていた化け物は、宣戦布告をした上で時間を置いて障壁を破壊したらしい、さらに時間を置いて城を土台から崩して全てを更地に変えた。
報告を受けてすぐさま城に帰ってきて瓦礫の山と並べられた死体を見た瞬間に敗北と絶望だけが心を支配する、あれを見て復讐を考えられる奴は相当にお目出度い頭をしているしここまで一方的だと神を相手にしたのと同義だろう。
「さて、全員揃っているが、これから先をどうする? 幸いにしてまだ砦は幾つも残っているが兄は死に側近も死んだ、俺は知っての通り武では側近に並べるが知略や政治は得意ではない、講和かそれとも反撃か、あるいは長期戦に持っていくか、忌憚なき意見を聞かせてくれ」
解りきった答えを聞くようだが目の前に居る四天王達は、少なくとも風の四天王ウィンドに関しては知略で俺より上だ、側近程では無いにしても軍師としての適性は高い、故に彼の意見がこの場では最も重いだろう、立場で言えば俺が上だろうがそんな物は紙くず程度の価値もないとアレを目にしたなら誰でも察する。
「正直に言って続けようと思えば続けられるでしょう、幸いにして前線も補給線も無事、ただ、仮にアレを成した者と相対すればそんなものは埃程度の価値も無いでしょう、かと言って講和となると相当に厳しい条件が着くと見て間違いない、相手から見れば我らは既に敗国の将でしかないのですから」
この言葉が四天王の中でも苛烈な武闘派でもある火の四天王フレイムの口から出たという事実が事の重大さを物語っている、仮にこれが砦一つ町一つ落とされたというのならば彼は自軍を持って報復しただろうという予想はこの中の全員が、本人でさえもが認める確定した出来事となっただろう、そんな彼が極めて後ろ向きに事実を受け止める程にあの光景は鮮烈に焼き付いている。
「とりあえず交戦を続ける場合、可能性だけで言うのであれば、破壊した魔法か能力か、あるいは単純な膂力か、どれにしても何かしらのデメリットが有るというのが希望的観測でしょう、証拠を挙げるとすると宣戦布告からと障壁を割りそこからやや間を置いて行動に移しているため溜めるための時間を要する、その後の追撃が無いから日に二度程度しか使えない、ただ、これらは起きた現象を希望的に見てこじつけたに過ぎません、仮にこの前提条件が無いならば講和しか無いでしょう」
「とりあえず野に放った斥候はまだ居るんだろ? ソイツらからの報告待ちか、それとも早めに白旗降るかだ、後手に回ると何かしらの罠か準備かしたんじゃないかって勘繰られて余計に不利になりそうだしな、意見を纏めるためって言い訳を使うにしても3日が限度だろ」
ウィンドの言葉を受けて土の四天王クレイが返す、移動に掛かる時間を考えても猶予らしい猶予は5日とない、事は急を要するし下手に時間を掛けて追撃を受ければその分だけ条件は悪くなるしこの場に居る四天王は兎も角として領主達に現実を突き付けても血気に逸る者が出てきてしまうだろう、今でさえどうにか各師団長や生き残った文官を通じて抑えているのだ、突かれれば容易く崩れる程に脆く薄い、早々に対応を決めてしまわないと下手をすると内戦にまで発展した日にはどうなるかなんて考えるまでもない。
とにかく今は情報を集めて内部を固めねば我らに未来はない、只でさえ兄や側近であるスチャンを筆頭に武闘派の猛者達を失い武力政治力知力共に格段に下がってしまっているのだ、内輪で揉めている様な状態ではないが俺を御輿と担ぎたくない連中も居ない訳ではない、消えた魔王城を見てまだそんな事を言える辺り相当にお目出度い頭をしている連中だが発言力はそれなりに有るのだ、派閥争いも既に始まっている現状で救いが有るとするならば少なくとも四天王全員が俺が仕切る事に異を唱えず立ててくれているという事くらいだろう。