夏の日常その3
キャンピングカーという物は日本だとそれなりに珍しく、しかし同時に珍しくもないという二律背反が両立するだろう、なにせ定義を何処にするかで解釈が変わるのだ。
車の中で寝泊まりできるならキャンピングカーと言うならば座席をフラットにすれば大抵の車がそうなる、ベッドが備え付けられている物だと言えばルーフルーム等を着けた大型トラックもまたそうなる、最低でもキッチンが無ければならないとなるとかなり絞られるが今時シガーソケット給電の電気コンロなんて珍しくもないためシンクの問題さえクリアできるならワゴンタイプの車を改装するだけで良い、それに加えてトイレとシャワーが必須となれば一気に数は減りパーセンテージは一桁にまで落ち込むだろう、そして最後の物のみをキャンピングカーの定義とするならば が所有するのはキャンピングカーではない、キッチンとベッドは有るがトイレやシャワーは流石に着いていない、大型免許を取得したならばそういう物を買うのも吝かでは無いだろうが排水の問題がある、何もかもが楽になるという事は無いだろう。
とまれ、少なくとも目の前の車には小さいながら冷蔵庫付きだ、コンビニで買った飲み物や猫の額程の冷凍スペースに詰め込まれたアイス等が有るが、とりあえず必要なのは飲み物だろう、麦茶とジュースを数本取り出してそのまま外に出る。クーラーボックスでも持って来ていたなら良かったのだろうが保冷剤や氷も必要になり重くなる、重量なんて有って無きが如しを地で行けるが用意の手間を考えるなら冷蔵庫に容れるのが最適解だ、取りに来る手間は有るが氷を用意したり溶けた水を捨てたり洗ったりの手間を考えると の場合は微妙に天秤が前者に傾く。
場所取りも兼ねているシートとパラソルは大量に有りすぎて見分けが付きにくいが相当な方向音痴でもない限りはおおよそ場所の検討は付くだろうしモニュメントか何かの様に荒ぶる鷹のポーズ中の筋肉の塊がそこに居るならば間違えろという方が難しい、と言うか何故に彼女はあんなポーズを取っているのか、多少は筋肉が隆起しそうだがネタ枠にしか見えない、意外と体幹を鍛えるためとかそういう理由が有るのかもしれないが只でさえ人目をさらに引いている。
このビーチのマスコットか何かにでもなったかの様だがあんなゴツいマスコットが居るとも思えないし仮に居たとして何故に人気が出るのか解らない、何せデフォルメも何もない筋肉ムキムキの少女だ、いや顔だけ少女だが首から下が色々とおかしな事になっているが特殊メイク等を駆使した何かのキャラクターに見えなくはないのかもしれない。
「書記ちゃんパース」
麦茶入りの500mlペットボトルを軽く投げ渡してそのまま近くのパラソルの下に逃げ込むように入る。
高気圧故にダウナーになる筈も無いのだが暑さのせいか日差しのせいか普段の軽薄さも何処へやらのダラダラ具合だ、その割に口は何時もと同じくらいに回るため低気圧のそれとはやはり違う。
「ほい、とりあえず水とスポドリと炭酸系、どれにするよ」
「じゃあスポドリで、ところで菜慈美先輩とリリー先輩は何処に?」
「うん? そこの海の家に居るっぽいな、かき氷でも食ってんじゃねぇの?」
「あー暑いですからね、先輩ちょっと断熱してくれません?」
「別に構わないが風情とか良いのか? 書記ちゃんみたく炎天下で焼きながらポーズ決めてるでも無いんだし暑さを楽しもうとかさ」
「この暑さでそんなの思うってかなりヤバイですよ」
「それもそうか、とりあえず体感5℃くらい下げとく」