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異能部  作者: KAINE
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板田という男

 学生の本分は言うまでもなく勉強だと言う者も居るだろう、だが無意味とも見える青春の時や愚かな蛮勇もまた方と言えるだろうし恋愛や友情もまた同じだ。

 ならばバイトもまた同じではなかろうかとかなり無茶苦茶な理論を持ってきて、目的のために金を稼ぐという行為に勤しむ、遊ぶためだったり、学費の足しのためだったり、何かを購入するための資金だったり、或いは将来に向けての貯金のためだったり、お小遣いだけでは足りないと言うなら値上げを交渉するか、でなければ働いて稼ぐしかない、後はせいぜい投資でもするかだが元手が無いならば不可能だしギャンブルの場合は未成年はお断りだろう、平日の夕方の数時間と土日のフルタイムでも最低時給次第では10万に届かないだろうがそもそも掛け持ちでもしない限り週七日の勤務が常態化するというのは仮に本分はバイト言うのを受け入れたとしても許容できる物では無いだろう、そして一ヶ所でその勤務内容なら完全にアウトだ、タイムカードの写真と給与明細でも持って労働基準署かそこらの弁護士の元にでも駆け込めば数日中にお昼のニュースで格好の的になるだろう。


 学業の合間に始めたバイトは週に3日、土日と金曜日という飲食業界では掻き入れ時とも言える曜日にひたすら注文を聞き料理を運びテーブルを拭いて会計に走るというファミレスのウェイターウェイトレスならば誰もが経験する業務をこなしていく。

 何か別に仕事が有るとするならばトイレ掃除だとか倉庫に行って備品の補充をするだとか後は客が水を溢したからモップ掛けだとか、基本的にはその辺りで個人商店としてのレストランならば近所への配達が有るかもという程度だろう。

そして基本的にフランチャイズのファミレスならば忙しい時間帯は決まっている、お昼時と夕飯時、後はおやつ時くらいで例外的に夕飯にはやや早い頃に学生が勉強会だとかで利用するパターンだが数十人が一挙にという例は少ないだろう。

何より優れているのはある程度の接客能力で許されるという点だ、ホテルや一流と呼べるレストランならば立ち居振舞いから言動、一挙手一投足に至るまで完璧にこなさないといけないし、専門の訓練所まで備えている所まで有るし無くても客の居ない時間帯に徹底的な訓練を行いセレブリティの前に在っても問題無いくらいに所作を叩き込まれる。


 対してファミレスにそこまでを求めるのはモンスタークレーマーくらいで最低限の敬語と失礼にならない程度の所作で十分だ、それで満足しないというのは時給がせいぜい千円にも満たないバイトに何を求めているのかと首を傾げるしかない、当たり前だが一流の対応をしてもらいたいなら一流の店に行き相応の対価を払って初めてサービスを受けられる、ファミレスが二流三流という訳ではないが求めるサービスの質としては一流のソレではないし他の何かを求めるなら他に行くのが正しい。

 お客様は神様だなんて言うが事日本に関しては八百万、善神悪神祟り神まで上も下も前も後ろも右も左も選り取り見取りでどれを信仰するかは自由だ、俺は神だぞと言うならば返答は『悪いがあんたの宗教は信仰していない』だ、信仰され敬われて初めて神は神足り得る、それが恐れや畏敬や英雄譚への憧れであろうと思われ願われて神となるならば、誰にも敬われず疎まれるだけの存在が神だと息巻いても薄ら寂しいだけでそこらのお地蔵様や道祖神の方がまだ有り難みがある。

この辺りは接客業界に居て困った客に出会った事のある奴なら大抵が心の奥底で思う事だろう、心の中で思いながら顔は笑顔で、あるいは神妙な顔で頭を下げる、耐えきれない奴ならあるいは空気を読まない奴なら面と向かって言いそうだがその場合は上司が物凄い勢いで頭を下げる事になるだろう。

そう言った意味において板田挑という男の立ち居振舞いは申し分ない、見た目の良さも人の良さも隙がなく笑顔を忘れず淀みなく店内を動き周り同僚のフォローも素早い、まるで後ろにも目が着いているのかと思いたくなる程に視野が広く何事にもソツがない。

だからこそ、進学に伴う引っ越しのために退職するという話は本当にどうしようもないくらいに口惜しい、これが給料的な問題ならば自分の権限の許す範囲でコッソリ値上げも吝かではないどころか喜んで請け負うが進学のためと言われては引き止める事もできない、せいぜいが引っ越し先の同グループ別店舗を紹介するくらいしかできないし、それにしたって何時までもバイトとして囲い混む事もできない、たかがバイトと言える立場にあって失ってここまで残念な存在はそうはいないだろう。

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