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異能部  作者: KAINE
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プロローグ

 私立西岸高等学校はその校舎を上から見た時にTとHを重ね合わせたような、某球団のロゴに限りなく近い形状をしている。

 これは大阪生まれ大阪育ちの校長の趣味だと生徒間では周知の事実となってはいるがそんな筈もない、そもそも彼が英語教諭として雇われた20年前の時点で形状はソレであり、新校舎と呼ばれたのはもう30年も前の事だ。

それに東を上にした場合で地図で見るなら角度が完全に異なるし食堂やプール、体育館等を含めるならば彼の球団ロゴとは完全に違う、何より校庭やらの関係で敷地で見るなら校舎は端に位置するため仮にこれを図案化してロゴにするにしてもかなり片寄りが出てしまうだろう。


 南端、東側を上とするH字の右側が通称職員棟、職員室や応接室、校長室、図書室、用務員室、事務室、職員用の更衣室に正面玄関、校庭に近いという理由で保健室もある、中央T字の縦棒は一二年棟、名の通り一年二年生の教室が立ち並び北側は三年棟、三年生の教室と家庭科室や理科室等の特別教室が多い、そして東側、T字の横棒は部室棟、文化系に体育系の部室だけが立ち並んでいる。

 放課後ともなると帰宅部は早々に立ち去るか殊勝にも空き教室で勉強会、或いはたむろするし、部活持ちは各部室に移る、ある者は部室棟へ、ある者は空き教室に、そんな中で三年棟三階、用具室と名付けられた机や椅子が積まれた空き教室に異質と言える二人が入り込んでいた。


 一人は剃髪頭に180cmは有るだろう長身を詰襟の学ランに納め、色黒と呼ぶには差し支えが有るくらいに黒い肌、それ事態は大した事ではない、今時ハーフや帰化した、留学してきた外国人日本人等珍しくもない、問題は何をどういう理由か片手で逆立ちしていて空いた片手でコーヒーを飲もうと苦慮していると言うのが異常としか言えないだろう。

 もう一人はブレザーに身を包んだ黒いミドルヘアーを軽くカールさせた女子生徒、こちらは男と対照的に病的な色白で深窓の令嬢と呼べる程の美人だ、何故だか巨大な蛇の骨を体に巻き付けながら机の上を走り回るネズミのミイラを愛でていなければだが。

大蛇の方もまたカタカタと動いており糸や機械が取り付けられているような雰囲気はない。


 異能、何時の頃からか人の中にそれまで物語の中にしか居なかった存在が現れて久しく、用具室のプレートの下に『異能部、どなた様もご自由にお越し下さい』という張り紙を見れば男子生徒か女子生徒か、はたまた第三者の異能により骨とミイラは動いているのだろうと何も知らない者が見れば判断する。

 そしてそれは正しく、女子生徒、深井沈華はその身に死霊術(ネクロマンシー)という力を宿し、動物の死体に仮初めの命を与えて使役している、ただ間違いなく何も知らずに通り掛かった者は張り紙の通りにお越しにとはならないだろう、何せ一人は片手逆立ちしてるし一人は骨とミイラを愛でながら悦に入っている、そんな空間に飛び込みたいなんて勇気を一学生に求めるのは酷でしかない。


 コーヒを飲もうと苦慮している男とミイラを撫でる女という異様としか思えない普通の教室よりやや手狭な用具室の窓が突然に、なんの前触れもなく、まるで天変地異が起こるが如くぶち割られた。

 飛んできた野球のボールだとか、はたまた鳥とかならばそういう事も有ろうと思えるが飛び込んで来たのは端的に言い表すならば特殊部隊の隊員だろう。

屋上から垂らしたらしいロープを使って反動を付けて底の厚そうなブーツでいきなり窓を破って現れた全身黒一色に防弾らしいチョッキ、顔を覆面で覆い銃まで携帯している、日本で住むならばサバイバルゲームかコスプレイベント、或いは重大な事件でもない限りは(と言うか世界的に見てもこんな格好をした奴が日常茶飯事な筈もないが)見ない装備に身を固めた男とも女とも判断の着かない存在。

ソイツがさらにもう一人部屋に侵入するが早いか構えたショットガンのトリガーを躊躇なく引く、何が起こったと目を見開く生徒二人が反応するより早くBB弾を放つエアガンやトイガン、モデルガン等とは全く違う火薬による破裂音が響き渡り誰かが何かを言う前に男子生徒の頭が弾け飛ぶ。


 途端に逆立ちを維持していた体がグラリと倒れ、壁と床に飛び散った脳漿とも頭蓋骨とも肉や脂肪、血液とも取れる人間だった物の上に倒れ込み、そのまま頭を失った首からビクビクと血液を噴出させて、体が反射でめちゃくちゃに動く。

 蛮行を果たした二人組は悲鳴すら挙げられずただソレを見ていた女子生徒に銃口を向けてやはり躊躇なくトリガーを引いた。

避ける素振りすらなく、身を守るように手を突き出す事も命乞いすらなく、火薬と鉄による蹂躙は物理学や生物学を引っ張り出して小難しい数式を当て嵌めるまでもなく深井沈華の命を奪う。


 筈だった、見えない何かに阻まれるかの如く銃弾は女子生徒に触れる数メートル手前で跳ね返り、あっちへこっちへ跳弾して壁や天井や床に突き刺さる事すらなく運動エネルギーが消えるまで暴れまわりコロコロと床に転がる、避ける素振りが無かったのではないその必要が全くこれっぽっちも無いという事実を沈華は知っていた、彼らが何故飛び込んできたのか、何処から来ているのか、そんな事は知らないが飛び込んできて、そして発砲した瞬間に彼らのこれから先の運命を彼女は正しく理解して、だから特に気にした風もなくミイラと骨を愛でる作業に戻る。


 「そりゃあさぁ、治るってか元通りだよ? でも痛みを感じない訳じゃないんだぜ」

 男の声だった、あり得ない声だった、扉が開いた気配は無いし自分達以外が窓から飛び込んでくる筈もない、部屋に二人しか居ない事は百も千も承知して、その上で凶行に及んだ。


 「ん? 日本語わからない?」

 『『『これなら解るかクソッタレ』』』』

日本語に続けられたのは果たして声と呼べるのか、英語、ロシア語、フランス語イタリア語の数ヵ国語が空間その物から発せられた、彼らに理解できたのは英語だけだがそれでも、その事よりも異常な事に頭が追い付かない。

まるで何事も無かったかのように学ランから靴まで血やその他もろもろで汚していた筈の男が無傷無汚れ、まるで最初っからそうだったとでも言うように立っていた。

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