1.『私』の永遠の別れと新たな出会い※前半NOside
此処は魔族の国の中で、最も危険な場所"魔の森第一孤島"。
魔獣と魔物の唸りや鳴き声が響く雨の中、小さな人影が浜辺に打ち上げられる。
数分後、近くの森の中から袖の無い真っ黒いフードコートを着た人影が出てくると、小さな人影に近寄る。
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「………っん、…ぅ……………?」
ここは、どこだろうか………?
何故自分はフカフカのベッドに寝ているのだろう?
寝起きで頭が回らなく、ボーっとしながら顔と視線だけで周りを見渡す。
身体を動かそうとしたが、プルプルとして全く力が入らない。私は諦めてベッドの上に身を任せ、記憶を辿る事にした。
私はいつも通り"地下牢"で目を覚まし、いつも自分の側に来てくれる父さんを待っていた。
五歳の誕生日の日から、母さんによって地下牢に閉じ込められ丁度五年経ち、十歳になった私は父さんの誕生日プレゼントが楽しみで、ずっとソワソワしながら待っていたんだ。
暫く経って、地下牢に続く扉のギィィイっていう音がして顔を向けたが、その後に続いた足音に違和感を感じた。
父さんによると、五歳の頃から真っ暗い地下牢に居たからか目と耳が良くなったらしく、足音で誰が来たのか分かる様になった。
聞いた事のない足音に自分の新しい世話係かと思ったけど、何となく嫌な予感がして、奥の壁の隅まで行き警戒をした。
足音のする上に行く階段を睨み付けていると、そこから全身真っ黒で顔に仮面を着けた人が現れた。
明らかに怪しい人物に更に警戒をした私は、腰を低くしてそいつをじっと見つめ何時でも動ける様にした。
いつもならハッキリと聞こえる足音が少ししか聞こえないそいつは、私が入っている地下牢の中に鍵を開けて入り近づいて来た。
「その瞳、お前がルメント・テルーナか」
「……………」
「怨むなら、お前の殺害依頼をした母親を怨めよ」
そいつはそう言いながら短剣を振り下ろして来た。私は何とかその一撃を避ける事ができたが、直ぐに横から蹴りが入って来て床に叩き付けられる。
何かが折れた音がして、余りの痛さに呻き声が出てしまった私の上に乗ってきたそいつは、短剣を振り上げていた。
反射的に目を瞑った時、私の身体から何かが溢れ出た感覚がした後、突然突風が吹き荒れた。
驚いて目を見開いた私が見たものは、牢の中にあった物が散乱し、壁に凭れ掛かっている人だった。
何があったのか解らず呆然としていたら、何やら慌てた様子の父さんが息を切らしながら降りてきた。
父さんは地下牢の様子に一瞬驚くが、直ぐに倒れている私に治癒魔法を掛け抱き上げる。
「テルーナ、あの男が気絶している間に此処から逃げるよ」
「逃げる?どこに行くの?」
父さんは私の問い掛けに応えず、眉を下げ悲しげに微笑し、それでも目に強い光を灯しながら、大丈夫だと言った。
私と父さんは何とかあそこから逃げ出し、近くの海辺に行った。
そこには小ぶりのイカダがあり、帆の根元に大きめの木の箱があった。木の箱には水と食料が入っていて、それらが腐らない様に魔方陣が書かれているらしい。
父さんは私をイカダに乗せ話し掛ける。
「良いかいテルーナ、このイカダは私が最も信頼のある人の所まで運んでくれる。その人にこの私のピアスを見せるんだ」
父さんはそう言いながら、いつも大事にしている、小さいリングピアスを私に渡した。
そのピアスは、父さんが子供の頃にとても偉大な方から渡されたのだと、良く話していた物だった。
こんな大切な物を渡された私はとても戸惑い、なぜか強く不安になった。
そんな私を見て父さんは、苦笑しながら私を強く抱き上げる。
「そのピアスの事は何度も話したように、とある偉大な方から渡された。その時にね、ある御言葉を頂いたんだ」
それを未来で最も大切な子へ渡しなさい─────
そう言った後、私をイカダにもう一度乗せ、父さんは私の頬に手を添えて顔を覗き込み、微笑む。
「私の一番大切な愛娘よ。私はもう永くはない、今此処で生きているのも奇跡な位だ。神様はこの時の為に、私を生かしてくれたのだろう」
「……とぅ…さん………?」
「強く、元気に生きてくれ…私の愛しい子」
父さんが私の額にキスをした直後、父さんから強い風が送られて来る。
突然の事で反射的に目を瞑ったが、何とか目を開き手を伸ばす。
「父さん…!嫌だ!とぅさーーーん!!」
柔らかい笑みを浮かべながら手を振る父さんを、私は姿が見えなくなっても見続けた。
(そうだ…その後、ボーっと空を見てたら、父さんの"生きて"って声を思い出して……)
父さんから渡されたピアスを着けた耳を触り、横の窓を見上げ外を見ると雨が降っていた。
動植物の気配は多いが人の気配はしない。
いや、微かにこの部屋の外から物音がしている。どうやら、こちらに向かっている様だ。
私は顔を扉に向けて待つことにした。
カチャ
「お、起きたのか。体調はどうだ?私が見つけた時かなり危なかったんだよ。大体一週間位起きなかったし」
「……ぁ、ん…たは………?」
「ん?ぁあ、私はサクラだ。その耳飾り、フレイの物だろう?君フレイの娘か」
部屋に入って来たのは女の人だった。
真っ赤な色の髪の毛で、左側の横髪に緑色のメッシュがしてある。後ろ髪は下ろしていて、腰位まであるようだ。
目は濃い藍色で、ハイライトが無いからか何だか吸い込まれそうな感じがする。
ジト目で垂れ眉、なぜかニヤニヤしているので少しイラッと来る顔だが、スタイルが良く、かなりの美女だ。
この女の人──サクラさんが言ったフレイと言う名前の人は、私の父さんだ。
どうやら、あの時父さんが言っていた頼りになる人とはこの人らしい。
まだ上手く喋れない私は、何とか頷き名前を言う。
「……て…るぅな……で…っぅ………」
「うん、やっぱりそうか。とりあえず、暫くは確りと栄養のある食事をして、確り睡眠を取り、身体の回復をさせてから何があったか話してくれ」
こうして、私とサクラさんは父さんの導きで出会ったのだった。
そして、私の人生はここから大きく変わり始める─────
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