12.『私』はギルドマスターと出会う
門の近くには畑や酪農があり、門から続く道は土の道でほとんど舗装されていないが石があまり無い。
少しS字に曲がっている道の両端には木が生い茂っている。
少し歩くと石の様な物で円形に地面が舗装されていて、両側には一本ずつ道があり真ん中に大きな噴水があった。
噴水の周りには師匠が言っていた出店らしき物が多くあって、所々に簡易テーブルと椅子が設置されている。
食べ物の良い匂いがするので、ご飯を食べて来たのにお腹が空いてきた。
「此処の屋台は商業ギルドに申請すれば、誰でも自由に販売できるんだ。但し、自分オリジナルの物や自分自身で採取した物じゃないと販売はできない」
たまに良い物売ってんだよねぇと言った師匠は、近くにあった魔道具を売っている店に寄る。
お店の紹介看板によると、物を作っている人とそれに魔力を付けている人の二人で作ったらしい。
師匠と店員が値切り合戦をし始めたので見物客が集まって来た。
私はそこから離れて師匠から貰ったお小遣いでウカシという動物の串焼きを買い、師匠の様子が見える椅子に座る。
ウカシとは、雌は乳を売り雄は食肉として売られている畜産の動物だ。
味付けは塩コショウだけだが、肉その物に少し甘みがあるので凄く美味しい。
帰りにもう一回買っていこう。
食べ終わった串をごみ箱に捨てて元の場所に戻ると、丁度値切り合戦が終わったらしく師匠が満足した表情で此方に来る。
どうやら値切りが成功した様だ。
「フフフ、良い買い物をしたよ!それじゃあ冒険者ギルドに行くよ」
「どっちに行くんですか?」
「ん?あぁ、此処の噴水広場は三本道に別れているんだよ。真ん中の道は丁度噴水で隠れていて見えなかったんだな。左側は港行きで右側が魔族学校行き、真ん中の真っ直ぐな道は貴族街の真ん中を抜けて御城まである。真ん中の道の手前に市場が両側にあって、市場を抜けて左側に住宅街、右側に住み込み含めてお店があるんだよ。まぁ、住宅街にもギルドや自宅営業だったら何ヵ所かあるんだけどね」
私が入っている冒険者ギルド、自由なギルドは左側の市場の近くにあるよと師匠が言って歩きだす。
ギルドの名前が気になるが、人混みの中師匠の後を追うのに必死で断念した。
市場に近付く程人が活気づいている様だ。
なんとか市場から抜けて直ぐに、屈強そうな人たちやローブを着た魔導師っぽい人たちが出入りする大きい建物があった。
此所が目的地な様で師匠が迷わずに入って行く。
師匠が意識して探さない限り見つからない程度で気配隠蔽をしていたので、私は万が一の為に全力で気配隠蔽をした。
一階は飲み食いができる場所らしく、普通に食事をしている人、酒盛りをしている人、何やら仲間同士で作戦会議の様な事をしている人と賑わっている。
中に入り右側の壁際に添って歩くと二階に行く階段があった。
二階には受付けがあり、左側の壁には大きなボードが貼ってある。
此処では依頼受付けや依頼整理をしているのか、依頼の内容が書かれている紙が貼っているボードの前に人が多くいる。
ギルドの出入り口側が吹き抜けで、一階が見えているので見晴らしが良い。
反対側に三階に行く階段があり、師匠は真っ直ぐ階段まで歩いて行く。
三階に着くと師匠が気配隠蔽を解いたので、私も不思議に思いながら解いた。
三階はそこまで広くなく、部屋の扉が一つだけポツンとある。
師匠は扉の前に行き足を上げると、扉を思いっきり蹴り開けた。
「おっ久~ギルマスぅ~元気?」
「キャァァァァア!!?」
随分と汚い甲高い叫び声が聞こえた。
扉の外から中の様子を見ると、スキンヘッドの厳つい顔の男性が顔を引き攣らせて師匠と対峙していた。
顔の左側に傷痕が多くある様だ。
「ちょっと!!やっと戻って来たと思ったら何してんのよ!!?あの時いきなり暫く休むって言って出ていってから連絡も無くて心配してたんだからね!?」
「アッハッハッ!悪かったなぁ。最近色々あって弟子もできたし、弟子の紹介ついでにギルド業を再開しようと思ってね!」
「は??アンタに弟子?その子大丈夫なの?生きてる?」
「おい、どういう事だ」
ポンポンと飛び交う会話と男性の喋り方に困惑していると、師匠が此方を向いて手招いている事に気が付き近寄る。
近くで男性(?)を見ると、吊り眉吊り目の強面だがかなり見目が良いのが分かる。
喋り方は女性の様だが、見た目は完全に細マッチョな男性だった。
「この子が私の弟子レインだ。レイン、此奴はシェル・ラスカレスって名前で、此処のギルドマスターをしている私の古くからの友人だよ。昔はパーティーを組んで共に戦った仲間だ」
「こんにちは…レインです。シェルさんはお兄さんですか?オネェさんですか?」
「アンタ清々しい程迷わず聞いてきたわね」
口元を引き攣らせて言ったシェルさんに首を傾げる。
因みに、師匠は私の質問を聞いて直ぐに爆笑して、私の隣で近くのテーブルを叩いている。
私と師匠の様子を見てシェルさんは諦めた様に溜め息を吐く。
「私は元々女性だったんだけど、今の私の奥さんを好きになったから男性に替えたのよ。まぁ、長い事女性として生きていたから口調までは男性に替えられなかったのよねぇ」
シェルさんはもう一度、はぁぁと溜め息を吐いた。
確か魔族って魔力の質が少し特殊で、自分の性別を自由に替えられるんだっけ?
今では他種族と関わった影響か性別を替える人はほとんどいなくなったが、昔は性別という概念が全く無かったらしい。
他にも種族によって性別を替える事ができる魔物がいるのだ。
てか、シェルさん奥さんいるんだ。
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