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チャリでタバコ吸ってる奴って回避不能だからこれもう半分テロだろ 2人目

 ◇◇◇◇◇


「へーい、ユーチャ、いるかーい?」

「あいあいさー」


 朝起きて仕事行って疲れて帰って来て23時の夜。

 俺はシャワーを浴びて眠る前に昨日の事を思い出して、あやふやに覚えていた悪魔の名前を呼んでみた。

 そしたら長年連れ添った相棒のような返事で、悪魔は返事をして来てしまった。


「……今日も喫煙者を殺すボタンを押したいんだけど」

「喫煙者じゃなくて歩きタバコをしている人間ね。はい、コレ」


 そう言って、目の前のてーぶるにゴトンと音を鳴らしながらボタンを置いた。

 銀色の箱に、赤いボタンが設置されているソレに、僕は躊躇いなく。


「そぉい!」


 と押した。

 本当は連打したい所だけど、昨日怒られた教訓を今日は生かした。

 僕は喫煙者と違って、学ぶことができるからね。


「それでは本日も、レッツ開園といきますかね」


 狭いワンルームの時空がぐにゃりと歪むと、最近購入した21型サイズのテレビが突然砂嵐で表示され始める。

 僕は昨日と同様、よくわからないまま、僕は目の前のテレビに釘付けとなった。



 ◇◇◇◇◇



 俺の名前は成岩(ならわ)やすひろ、21歳。

 趣味はゲーム、大学の飲み会が終わって、これから彼女の待つマンションに帰る所だ。


「はぁ~! 今日も充実した1日だったなぁ~」


 バイト代がでたばかりの財布は、ホカホカでたまらない。

 単位は十分とれているし、後は卒論を書ききれば万事解決の順風満帆だ。


 ここ最近、良い事が立て続けに起きているきがする。

 日々の行いってのは、大切なんだなッ!

 ……と思いながら、自転車置き場からマイチャリを引き出していく。


 ここから片道15分で、家に着く。

 到着する頃には美味しい晩御飯が待っているだろう。

 それに、カワイイ彼女もね。





 先程購入したタバコの包装ビニールを剥がし、箱を開け、流れるように口に一本挟む。

 ライターで火をつけ、鼻から大きく空気を吐き出し、口から思いっきり吸いこんでいく。


 肺の中に入った幸せを、疲れと共に一気に吐き出す。

 まだ春先だと言うのに寒い夜空には、温かい空気をタバコの煙が宙を舞った。



 至福のひと時。

 家で吸えば彼女が怒る。

 だから、外で吸う。年々喫煙者の肩身が狭くなってくる。

 だからこうやって、ひとけの多い場所しかなければ、チャリで走りながら吸うしかない。


 チリンチリンとベルを鳴らしながら、歩行者をどかし、直進する。

 暗い時にウォーキングする奴等は絶対に明かりを持ったほうが良い。

 真っ暗の中、黒い服で死にたいのか、とすら思える。


 だからこれは俺の為じゃなくて、他人の為にやってあげている行為だ。

 俺は人助けをしている。


 だけども、それが感謝されなくてもどうだっていい。

 程よい呼吸の乱れが、タバコの美味しさを際立たせてくれるようだから――







 ――瞬間。


 ここは歩道。


 そう、歩道なのに。


 どうして、どうして。







 ――トラックが突っ込んで(・・・・・・・・・・)くるんだ?(・・・・・)


 それも、ただ突っ込んでくる訳じゃない。

 まるでジャンプして、僕だけに狙いを定めたかのような角度で、飛びついてくる。

 空を切り、コンクリートを削りながら、それは僕の元までやってくる――





 自転車を跳ねのけ、ギリギリの所で避けようとするも、ホーミングミサイルのようにそれはこちらに向かってくる。

 そのまま左腕を巻き込みながら、ぐにゃりと世界を歪ませながら僕を下敷きにする。

 トラックのライトがそのまま僕の頭を直撃する形で、だけどもギリギリクッションになる形で――

 それでも、左半身は完全にぶつかったまま…… 痛覚はないのだけれど、感覚はないのだけれど、僕はもう左半身は見る事はできなかった。


 だって、だってこんなに血が出ているのに。

 こんなに、内臓がぐにゃりと出ているのに。


 どうして僕の意識はこんなにハッキリとしているのか、理解できなかったから――。


 ぐしゃり、ぐしゃり、ぐしゃり。

 周りの悲鳴よりも大きく、トラックは僕をひき潰すように、タイヤを前後に動かしている。


 痛くない、痛みなんて感じない。

 ただ、ゆっくりと、ゆっくりと、この世界から削られているような、そんな感覚だけが僕を襲う。




「助けて……」


 振り絞ってでた声は、周りの人達には聞こえていない。

 視界から色を失い、徐々に白黒世界に足を踏み入れていく。


 切り離されていく。

 心と体が、切り離されていく。


 あぁ、これが。




 ――死ぬって、事なんだなぁ。








 嫌だ。

 嫌だ嫌だ。


 ――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ



 死にたくないまだやりたい事が残ってる彼女もいる恋人がいるんだ将来があるんだ楽しい事がいっぱいあって明日も約束していてそれでそれで――







 ◇◇◇◇◇


 TVの前の男は死んだ。

 動かなくなった、絶命した。

 ……ソレが現実であれば、の話であるが。


「そういえば昨日の事、ニュースになってませんでしたね」

「まぁ人ひとり居なくなっただけだからね、今日のはニュースくらいにはなるんじゃないかな?」

「それに、歩きタバコじゃなかったですよね。チャリ走りタバコでしたよね」

「あんまり違いは無いじゃん?」

「確かに。どちらにしろ、死んで欲しいと思うのは間違いない事なので。回避不能という観点から言えばチャリカスの方がウザイですね」


 赤い髪、鋭い牙、黒い翼を羽ばたかせながら宙を浮かぶ、悪魔のような少女は――


「そうでしょ? たいした違いは無いんだよ。タバコ吸って、周りの寿命を削る行為なんて、死神にしか許されないってのにさ。まったく、人間如きが大した事を日常的にやってくれるね」

「そう例えられたら、たしかに彼等は死神見習いなのかもしれませんね……」



 ぐにゃりと潰された体に若干の吐き気を押さえていると、TVは砂嵐状態になり、電源がプツリと落ちた。

 ……よくみると、TVのコンセントは外れている。

 これは、電気が通って無くても映し出せる品物…… というか、そういう能力を持っているのか……



「……じゃあ、スッキリした所で僕、明日早いんで寝ますね」

「そうだね。まぁ私も今回は十分楽しめたよ。初めての時は、全然グロテスクじゃなかったからね」

「夢に出ちゃいそうでアレですけど、まぁタバコカスが1人死んだのとプラマイゼロで気分よく眠る事にします」

「そうするといいよ。ではまた明日、この時間にね」


 そういうと、宙をクルリと回転しながら、悪魔は去っていった。


 僕はおおきな欠伸をしながら、タイマーをセットして、ベッドと睡魔に身を委ねた。



「……明日は、どんな死に方をしてくれるのかな」




 僕の人生に、楽しみな事が1つ増えた。

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