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外だったら歩きタバコが許されると思ってる奴マジなんなの 1人目

 ◇◇◇◇◇


 俺の名前は川船(かわふね)しげる、33歳。

 趣味はツーリング、先日念願のマイホームを購入し、立派な一国の主ともなった。


「はぁ~! 今日も疲れたな~」


 今月の営業成績は俺がナンバー1。

 特別賞与も貰えて、俺はもう幸せの絶頂である。

 家に帰れば妻が待ってるし、2歳3ヵ月になる娘もいる。


 こんな幸せな事が続いているのだろうか。

 俺はコンビニでタバコを買うついでに、レジ前に置いてある震災募金に500円玉を投入した。


「募金ありがとうございます~」

「いえいえ~ お互い助け合いが必要ッスよね~」


 幸せは、分ければ必ず帰って来る。

 これは中学生からの、俺のモットーである。


 良い事があれば、誰かに驕ったり、こうやって募金をする。

 そうすれば、いずれは世界を巡り巡って自分に幸せが返ってくるのである。




 時間は……19時か。

 妻には既に連絡済み、マイホームに到着する頃には美味しい食事が待っているだろう。



「かぁ~! 幸せっていいなぁ~!」


 ……等とは叫ばないが、心の中で、俺は叫ぶ。

 電車の最寄のコンビニから、歩いて15分。

 そこが俺の、住む家がある。


 先程購入したタバコの包装ビニールを剥がし、箱を開け、流れるように口に一本挟む。

 ライターで火をつけ、鼻から大きく空気を吐き出し、口から思いっきり吸いこんでいく。


 肺の中に入った幸せを、疲れと共に一気に吐き出す。

 まだ春先だと言うのに寒い夜空には、温かい空気をタバコの煙が宙を舞った。




 至福のひと時。

 家で吸えば妻が怒るし、子供にも悪影響だ。

 だから、外で吸う。年々喫煙者の肩身が狭くなってくる。

 だからこうやって、ひとけのない場所で吸うしかない。


 だけども、それがいい。

 最小限に抑えられた雑音が、タバコの美味しさを際立たせてくれるようだから――







 ――瞬間。

 俺は体勢を崩し、顔が地面に叩きつけられた。


 何が起こったのか分からない。

 何も分からない。

 ただ1つ、1つ分かる事と言えば――


 俺の体から、血が出ているという事だけだ。

 それも、物凄い量。

 なんなんだ。なんなんだ一体。

 車にぶつけられた訳でもない。自転車もない。そもそも人がいない。

 こんな夜の住宅街で、俺は一体どうなっているんだ。


「――うっ!?」


 よく見れば、胸元とは別に、足が――




 ――左足が、消えている!?



 どどどどどど。

 どどどどっどどどどどどどど。



 どういう事なんだ。


 足が、消えてるだって!?




 ――瞬間、右足に何かが辺り、膝下から全てが消えていった。

 吹き飛んだ、んじゃない。

 はじけ飛んだ、訳じゃない。


 消えた。

 血は僅かに吹き飛んではいるけれど、それはそれはそれは、今残された体からであって――



 俺のの、ののの、俺の足にあった血液じゃない。



「だだだ、誰か! 助けてくれ! 助けてください!」


 大きな声で叫んでも、叫び続けても、誰も来てはくれない。

 ただ俺は、おおおお俺は、下半身から消え続ける、胸元から消え続ける体を眺め続けるだけ。


 痛みはない。痛みは麻痺しているのか、体に痛みは感じない。

 まるで、夢のよう。

 そう、これはきっと夢なのだ。



 朝は妻が起こしてくれて、朝食を用意してくれるのだ。

 娘の笑顔を見てから、会社にいくんだ。

 それから、それから、それから――







 ――それから、俺は、幸せになるんだ――










 ◇◇◇◇◇





 TV画面に映された男は、消えた。

 死んだかどうかすら分からないが、残された大量の血痕から察するに、きっと死んだのだと思う。

 ……ソレが現実であれば、の話であるが。


「……なんか、ナレーションみたいな、登場人物の心境みたいなのも読み上げられてましたけど、番組か何かですか?」

「これは対象の心境を読み上げてくれる、ナイスでご都合的なアイテムだと思ってくれていいよ。今後君が1日1回、これを押す毎に、この世から消え去る瞬間がこうやってTV写される訳さ」

「……へぇ~」



 B級ホラー映画が大好きな僕は、なかなか素晴らしい短編映画だと思った。

 もしこれが現実であれば、明日あたりにニュースになってるかもしれない。




「……で、これを押しちゃった代償とかってあるんですか?」

「むしろ今のTVを見るってのが代償なんだけど…… なんか心にこない?」

「いえ、なんだか実感が沸かないですね」

「まぁ最初はそうかもしれないね。でもその内、幸せな家庭を壊してしまった罪の重さがのしかかってくるんじゃないかな?」



 現実であれば、確かにそうかもしれないな。

 まぁ、歩きタバコなんてしてる奴なんて死んで当然の奴等しか存在しない訳だから、そうそう重い訳がないんだけれどね。



「じゃあ、僕、明日早いんで寝ますね。 あ、ボタンはここの引き出しに入れといていいですか?」

「君に渡すと壊されそうだから、私が持っておくよ。必要な時に大声で呼んでくれ」

「大声だと近所迷惑になっちゃうんですが…… そういえば、名前を聞いていませんでしたね」


 赤い髪、鋭い牙、黒い翼を羽ばたかせながら宙を浮かぶ、悪魔のような少女は――


「ユーチャとでも呼んでくれればいいよ」

「そうですか。僕の名前は花村吉影(はなむらよしかげ)です。呼び方はお任せします」

「そうかい? じゃさヨシカゲと呼ぶことにしよう。ではまた明日、この時間にね」


 そういうと、宙をクルリと回転しながら、悪魔は去っていった。


 なかなか面白い幻覚を見たなと思いながら、僕はタイマーをセットして、ベッドと睡魔に身を委ねた。

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