歩きタバコは全員なるべくこの世の地獄を味わいながら苦しんでアレしてほしい
「オッラァ!!!! オッラァ!!!!」
目の前の赤いボタンを思いっきり叩き続ける僕に、悪魔は叫んだ。
「まだ! まだ説明終わって無いから! あとそれ替えが無いから! 壊さないようにしてください!」
「俺は滅ぶまでッ! 連打するのを辞めないッ! 27年の恨み! ここで晴らす!」
「バンバン叩き続けるのやめてー!」
◇◇◇◇◇
深夜22時。
社会に疲れ切った体をベッドの上にダイブして、明日の予定を確認する。
「朝5時起きかよ…… はぁ、マジで会社辞めようかな…… 辞めてやろうかな……」
しわくちゃになるスーツをおかまいなしに、ぐるりぐるりとベッドの上に横たわり続ける。
「それにさっきの歩きタバコ…… マジでタバコ吸ってる奴死んでくんねぇかなぁ……」
そう思っいながらスマホをながめていると――
突然、ワンルームマンションの時空が歪み、ぐにゃりと体を捻じ曲げながら現れたのは――
赤い髪、鋭い牙、黒い翼を羽ばたかせながら宙を浮かぶ、悪魔のような少女だった。
「――初めまして、悪魔です」
「お、おう」
なんとか捻りだした言葉が、腑抜けた声になるのは仕方がない。
目の前の非現実的な現象が現実に起きているのかを確かめる為に、スマホの時刻を確認、左腕をつねって痛覚を確認。
以上の拙い情報から、目の前の事象悪魔は現実に存在しているものだと、とりあえずは受け入れる事にした。
「……で、その悪魔さんが何の御用でしょうか……」
「契約をしにきたのさ。君みたいに他人の死を望んでいる人間に、チャンスを与えようと思ってね」
そう言いながら目の前に放り投げられたのは、白の四角に、赤いボタンのついた手のひらサイズの物体。
なんだなんだと思いながら、笑顔になっている悪魔の顔を覗き込む。
「これはね、歩きタバコをしている人間を、殺してしまえるボタンなんだよ」
「……歩きタバコ? って、あの…… 外でタバコを吸っている人の事でしょうか?」
「そうだよ。さっき君も嫌な思いがしただろう?
「……えぇ、確かに。すれ違いざまに匂わせてくる奴が嫌いでならなかったんですけど……」
「そんな奴を、殺してしまえるボタンなんだよ! どう? すごいでしょ!?」
◇◇◇◇◇
「オッラァ!!!! オッラァ!!!!」
目の前の赤いボタンを思いっきり叩き続ける僕に、悪魔は叫んだ。
「まだ! まだ説明終わって無いから! あとそれ替えが無いから! 壊さないようにしてください!」
「俺は滅ぶまでッ! 連打するのを辞めないッ! 27年の恨み! ここで晴らす!」
「バンバン叩き続けるのやめてー!」
日頃の恨みと、個人的な恨みと、日頃のストレスを解消するように、俺は目の前のボタンを連打した。
悪魔が現実なのか、ボタンが本物なのか、どうだっていい。
俺の体はもう我慢の限界を超えていて、そのはけ口となったボタンには申し訳ないが犠牲になってもらうしかなかった。
「それ! 1日1回だから! 1日1人までしか殺せないから!」
「……はぇ?」
物理的に制止してくた悪魔に、腑抜けた声で返す。
「連打したってダメだからぁ…… 壊れちゃうからぁ……」
「……いや、なんか申し訳ありません。つい……」
「ついじゃないよ! 君、今100回くらい押したでしょ!? 人の命を何だと思ってるの?」
「すみません……」
何故か悪魔に生命について説教をされながら、僕は自然とベッドの上で正座をしていた。
反対に、悪魔は手に腰を当てながら、プンスカと起こりながらこちらに叫んだ。
「確かに歩きタバコを殺せるとは言ったけどさぁ。 ちゃんと最後を見届けなければならないって契約もあるんだよ」
「……契約?」
「そう、歩きタバコをしている人間が死ぬ瞬間を、君は見届けなければならないんだ。」
再び狭いワンルームの時空がぐにゃりと歪むと、最近購入した21型サイズのテレビが突然砂嵐で表示され始めた。
「さぁ、今からここに歩きタバコをしている奴が映るよ」
「……なんだかドキドキしますね」
悪魔に出会ったからなのか、テレビに映るからなのか、それとも人が死ぬからなのか。
よくわからないまま、僕は目の前のテレビに釘付けとなった。






