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第十七話

「オレイチから俺百! 構えー!」

「俺ワンオーワンから俺二百! ニョイスティックを伸ばせー!」


 サトルを指揮するサトルの号令が響く。

 一列目のサトルはニョイスティックを腰だめに構え、二列目のサトルはいっせいにニョイスティックを立てた。


 それっぽい陣形でそれっぽいことをしているが、本来その必要はない。

 なにしろサトルは200人の分身を生み出したのだ。

 プレジアとベスタに倒された数を考えれば、すでに豚鬼よりレベル65のサトルの方が多い。


「あ、ちょっ、突っ込んでくるなよ! ここは揃って攻撃されるのをおとなしく待つところだろ!」

「なあこれ間隔広すぎて明らかに攻撃受けないオークがいるんだけど。もうちょっと詰めた方がよくない?」

「左翼! そっちちょっとニョイスティックが長いぞ! 揃えろ揃えろ!」

「はあ。仲間っていいよなあ。ぜんぶ俺だけど」


 ソロ冒険者だったサトルに、開けた野外で陣形を組むような集団戦の経験はない。

 『ぼっちの踏破者』サトル、集団戦っぽいことをやってみたかっただけらしい。


「直前でニョイスティックを伸ばすの忘れるなよ俺たち!」

「オレイチから俺百! 突けー!」

「俺ワンオーワンから俺二百! 叩けー!」


 サトルの号令で、一列目のサトルがニョイスティックを突き出し、二列目のサトルが振り下ろした。

 届かないはずの場所から伸びてきた武器に、豚鬼たちが倒れていく。

 倒した数は少ない。筋肉と脂肪をまとうかた太りの豚鬼たちにとって、打撃武器は相性が悪いようだ。

 だが、サトルたちは満足げな笑みを浮かべている。余裕か。真剣なプレジアとソフィア姫が浮かばれない。


「これだと討ち漏らしが多いな。本物の騎士団や歩兵はどうやってるんだろ。今度プレジアに聞いてみるか」


 一度で満足したのか、サトルたちは隊列を保ったまま思い思いに攻撃をはじめた。

 的確に急所を狙って自由に動く分、一斉攻撃よりも豚鬼の倒れるペースは早い。


「もしもの時のために、姫様の【回復魔法】が届く場所まで進みましょうか。油断するなよ俺たち」


 ソフィア姫と護衛のサトルにサトルが声をかけて、サトル本体がいる本隊が進んでいく。

 途中、倒れていた豚鬼が地面にヒザをついて、「せめて一矢」と死力を振り絞るも、飛んできた水の球に撃たれてふたたび倒れた。


 サトルは水球が飛んできた方向に目を向ける。

 豚鬼の一団が水辺を向いておののいていた。

 サトルたちに背を向けたまま、じりじりと後ずさってくる。


 豚鬼たちの巨体の向こう。

 そこには、名状しがたいモンスターがいた。

 ぬらぬらと鱗を妖しく光らせる、冒涜的なモンスター。


「サトルさん、筏はすべて潰しましたわ。こちらに加勢いたしますので、終わった暁にはご褒美に子種をくださいませ」


 おぞましい見た目から想像できないほどの美しい声。

 シファである。

 【人化の術】を解いてサハギンの姿に戻ったシファである。


「やらないから。その姿を見ちゃったらもうできないから」


 豊かな双丘をサトルに押し付けて、ことあるごとに誘惑してくる肉感的な美女の姿はそこにはない。

 忘れかけていた本性を思い出して、サトルは空を見上げた。

 ユークリア王国を旅する間の、目を惹く露出もやわらかな感触も至近距離の熱い吐息も、すべては幻想だ。

 遣東使としてともに旅する仲間がいても、『孤独(ソロ)を貫く男』の二つ名は返上できそうにない。


「はいはいもう隊列とかやめやめ! とにかく逃さないで、プレジアをサポートするぞ!」

「面倒になるのが早いぞ俺! 頃合いだと思うけど!」

「まあ普通にやればこうなるよなあ。あとは生き残りと、ボス豚鬼の周辺だけか」

「こうなったらプレジアに一対一で思う存分戦わせるぞ! 気合い入れなおせ俺たち!」

「シファは水辺で暴れさせるか。離れたいんじゃなくてそっちから逃さないように」


 サトルが空を見上げて世の無情を嘆いている間に、サトルたちは行動をはじめた。

 ベスタとシファ、サトルの参戦で、豚鬼の群れはあっという間に総崩れとなった。

 戦意のある豚鬼はボス豚鬼と取り巻きだけで、あとは倒れ伏して死を待つ豚鬼と、統率を離れて逃げ出す豚鬼だけである。



 ユークリア王国の、モンスターがのさばっていた北東部。

 豚鬼の縄張りは、サトルたちの侵攻を受けて三日で壊滅寸前となっていた。

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