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第十六話

 200人の人間が、二列横隊で丘を下っていく。

 揃いのタワーシールドが陽光を反射してきらめき、知能が低い豚鬼にさえプレッシャーを与える。

 合図もないのに左右の人間は歩を速めて、豚鬼の集落を半包囲するように広がった。

 上空から見れば、鶴が翼を広げたように見えたことだろう。


 一糸乱れぬ行進は、そうとうに訓練された騎士団や歩兵――ではなく、サトルである。


「右翼、遅れてるぞオレジュー!」

「だいたい200匹対200人! 集団戦はみなぎるなあ」

「ねえこれ揃って進む必要あった? やりたかっただけだよね?」

「プレジアが開けた穴をえぐれ! あれ、だったら鶴翼じゃない方がよくない俺?」


 サトルとサトルの分身たちである。

 サトルとサトルの間隔は広い。

 普通の歩兵であれば間を突かれて包囲を抜けられる、あるいは陣形を乱されるだろう。

 だが、少なくとも相対する豚鬼には不可能だ。

 なにしろ全員レベル65で、タワーシールドと長柄武器を手にしたサトルたちである。

 サトルの分身が気づいたように、並んで進む必要さえない。

 モンスターの群れを前に、ただ集団戦の雰囲気を味わいたかっただけだ。


「『オーク斬り』ッ! オーク勇者である父を故郷から追い出した薄汚い豚鬼(オーク)め、取り巻きもボスもここで殲滅してくれる!」


「そもそも『オーク勇者』ってなんだよ。せめて勇オークか勇豚人じゃないのか」


 サトルのツッコミはプレジアに届かない。

 進軍するサトルたちの前では、『追放されしオーク勇者』を父に持つプレジアが豚鬼の群れに斬り込んでいる。

 新たに覚えた『オーク斬り』で青い光を広範囲に飛ばして、片角のひときわ大きなボス豚鬼に向かって突き進んでいた。


「がんばってくださいプレジア……」


 サトルたちの中央後方には、十人が固まって歩いていた。

 プレジアの無事を祈るソフィア姫と、その前後左右でタワーシールドを構えて護衛するサトルが八人。

 ひとかたまりとなった九人の横に立つサトルは、丘のふもとで後ろを振り返った。


「防ぎきれるだろうけど、こっちに誤射するなよベスタ。誤射したら……」


「だだだ大丈夫ですサトル様! 亀の時は弾かれたせいで、アタシ今度はちゃんと気をつけますから! 家? にもサトル様にも姫様にもプレジアにも当てませんから!」


「おいシファが抜けてるぞ」


 サトルが振り返った丘の中腹にはドラゴンがいた。

 【変化の術】を解いて本来の姿に戻ったベスタである。


 馬として運んでいた荷物を足元に置き、ベスタは爪を地面に食い込ませて大きく息を吸った。


「サトル様の次に最強の! アタシのブレスを喰らえー!」


 ベスタがブレスを放つ。

 水のブレスは、プレジアの左から背後に回り込もうとする豚鬼の集団をなぎ払った。

 続けて、右から近づこうとしていた豚鬼を吹き飛ばす。


「プレジアが囲まれるのを防ごうとしてるのか。やるなベスタ」


「うへ、うへへへへ、サトル様に褒められたやっぱりアタシは最強で有能でよーしもう一発! あのサハギンなんかより役に立つことを見せてやるー!」


 サトルに褒められて、ベスタは調子に乗った。

 以前、ブレスはボス鎧に抵抗されて、アンデッド枢機卿には魔法で防がれ、大亀には弾かれて、ここぞという場面ではほとんど通用しなかった。

 ちょっとブレスが当たっただけでまとめて吹っ飛ぶ豚鬼を見て、ベスタはすっかり自信を取り戻したようだ。


 連発されるベスタのドラゴンブレスに、豚鬼の群れは混乱状態に陥った。


「す、すごいですね……これがベスタさんの本気……」


「まあベスタはあれでもドラゴンですからね。いくら精鋭でも豚鬼相手ならこんなものでしょう」

「誤射はなし! 豚鬼の隊列は乱れてる! 進むぞ俺たち!」

「鶴翼を広げろ! 一匹も逃すなよ!」

「コイツらノリで生きてるだろ……レベル上げのためにプレジアに倒させるんじゃないのか……」

「そこはほら! プレジアは因縁があるっぽいボス豚鬼に集中してもらう方針ってことで!」


 がやがやと騒ぎながらサトルが進む。

 サトル200人の集団は丘を降りきって、豚鬼の群れを半包囲した。

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