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第六話

「よっしゃああああああ! あっぶね、グーを出してよかった!」

「あー、くそ、負けた。はいはい行くよ、行きますよ」

「頼むぞオレ30。失敗したら……たき火で攻めるか?」

「持久戦はなあ。誰かに見られる可能性が高くなるから」


「…………サトルさん? その、遊んでるわけではないのですよね?」


「サ、サトル、私もこれはどうかと思うのだが」


 大亀(ヒュージタートル)を包囲するサトルたちとは別に、サトルたちが集まってジャンケン大会が繰り広げられた。

 護衛のサトルに守られたソフィア姫も、戦線から離脱させられたプレジアも、大亀(ヒュージタートル)を無視して突然はじまったジャンケン大会に引いている。

 ベスタは馬の姿のまま大亀(ヒュージタートル)に挑みかかっている。ブレスが通じなかったことが悔しいのか、それともサトルを吹き飛ばしたことに責任を感じているのか。


 ジャンケン大会をしていても、サトルは大亀(ヒュージタートル)を放置したわけではない。

 増やした分身で大亀(ヒュージタートル)を包囲して断続的に攻撃している。

 大亀(ヒュージタートル)の甲羅は硬く、甲羅から出た足にも尻尾にも頭にも首にもたいしたダメージが入っているようには見えないが、注意を引きつける効果はあった。


 サトルたち一行の攻撃はほとんど効かないが、鈍重な大亀(ヒュージタートル)の攻撃も回避できている。

 いつも強力なモンスター相手にするように囲んでボコっても、長期戦は免れない現状である。


「それぐらいやりたくない手段だってことです。でもまあ、現状を打破するには仕方ないことで。はあ、十年ぶりにこの手を使うのか……」


 サトルは肩を落としてため息を吐く。

 ダナビウス国に入ってからため息が多い。


 テンションが低いサトルをよそに、サトルたちが配置についた。


「よし、やれ、俺!」

 

 やけくそのようにサトルが叫ぶと、サトルが動き出した。


「ちょうどいい、プレジア、これもらうぞ」


「あっ! 私の川魚のフリットが!」


「いやまだフリットになってないだろ。街に戻ったらご馳走するから」


 プレジアが魚突き漁で集めた川魚を、走り出したサトルがひったくる。

 魚籠ごと投げると、大亀(ヒュージタートル)はバクッと口を開けた。

 人を丸呑みできそうなほど、大きな口を。


「いまだ俺!」

「任せろ俺! 伸びろニョイスティック!」

「がんばれよーオレ30。これも使え」

「はあ、ジャンケン負けなくてよかった」


 左から大亀(ヒュージタートル)の頭に近づいたサトルが口の端にニョイスティックを突っ込み、右から亀の頭に近づいたサトルもニョイスティックを突っ込む。

 同時に、伸縮自在のニョイスティックを伸ばした。


 開いた大亀(ヒュージタートル)の口が、閉じないように。


「亀の頭にも口はあるんだよなあ!」


 縮めたニョイスティックを手に持って、サトルは大亀(ヒュージタートル)の口に飛び込んだ。


「おい、オレ30が最低の下ネタ言って突っ込んだぞ」

「ドン引きなんですけど何言ってんだ俺……」

「アレを俺だと思いたくない。俺だけど俺じゃない」


 残されたサトルは最後の言葉にざわついて、何人かのサトルは頭を抱える。

 ソフィア姫の護衛についたサトルは、8歳の美女児から目を逸らしている。

 プレジアは首を傾げ、ベスタはサトルの言葉ではなく行動にあんぐり口を開けていた。


「サ、サトル様、サトル様が飲み込まれて、大亀(ヒュージタートル)はでっかいからサトル様は生きたままで、まさか。もしアタシがドラゴンの時にサトル様がアレをやられたら……よかった、アタシはサトル様の味方でよかった」


 サトルの攻撃方法にいち早く気づいたのはベスタだった。

 ブツブツうわごとを言いながら、だーっと涙を流している。

 ドラゴンの姿で戦った時にコレをやられることを想像したらしい。


「サトルさん、これは……? わたくしには、サトルさんが自ら死を選んだようにしか見えないのですけれど」


「まあ、間違いではないですね。飛び込んだ俺は助からないでしょう。でも……ほら、見てください」


 ソフィア姫の疑問に応える代わりに、サトルはすっと大亀(ヒュージタートル)を指差した。


 サトルを飲み込んだ大亀(ヒュージタートル)は一度手足を引っ込めて地に伏せる。


 と、ジタバタと暴れはじめた。


 苦しみもがいているように。


「こ、これはまさか。そうか、だからベスタは涙して」


「プレジア? どういうことでしょう?」


「10m超のデカいモンスターに()()()されたわけです。俺はいずれ死ぬでしょうが……レベル65の俺が死ぬまで、時間はあります」


 サトルの説明に、ソフィア姫は目を丸くする。

 どんな方法でサトルが大亀(ヒュージタートル)を攻撃しているのか、理解したのだろう。


「高レベルだから締め付けられても耐えられるか、まあ骨の二、三本は折れるかもしれませんけど簡単には死にません。スキル【風魔法】で窒息は先延ばしできます。だから」


「【分身術】。サトルの分身が死んでも追体験するだけで、サトルが死ぬわけではないから」


「そういうことだプレジア。……これを追体験するのは本当にイヤだけどな」


 サトルたちは、大河に逃げられないように、のたうちまわる大亀(ヒュージタートル)を包囲している。


 やがて、もがいていた大亀(ヒュージタートル)の動きが止まる。

 ズンッと、力なく地面に腹をつけて、口を開けた。


 大きな口から、大量の血と肉片がゴパッと流れ出す。


「へへ、やったぜ、俺……」


 流れ出てきたサトルの上半身が、一言(ひとこと)残して息絶えた。


 大亀(ヒュージタートル)も息絶えた。


「亀の頭から吐き出されたか……」

「言い方言い方ァ! オレ30より悪化してるぞ俺トゥエンティワン!」

「最低すぎる下ネタよりさらに最低の下ネタか」

「俺もう二度と下ネタ言うのやめよう。あんな俺はイヤだ、頼むぞ俺」

「アレを俺だと思いたくない。俺だけど俺じゃない」


 サトルたちの顔が引きつっている。自爆戦法ではなく自爆のせいで。


「ア、アタシ、あんまりドラゴンの姿に戻りたくし成長しなくていいかなって。アタシは二度とサトル様の敵にならないけどサトル様がその気になったらアタシの中からボコられ、そういうのはちょっと違うっていうか」


 ベスタの声は震えている。足はガクガクだ。


「……マジで追体験したくない。長期戦に持ち込んだ方がよかったかもなあ」


 サトルのボヤきが虚しく響く。いまさらである。



 ダナビウス国の、街から離れた大河のほとり。

 サトルたち一行は、石橋を破壊し、渡河する人間を襲う水棲モンスター・大亀(ヒュージタートル)を倒した。

 スキル【分身術】を持つサトルの、対大型モンスター用の作戦で、ベスタに新たなトラウマを植えつけて。


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