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第十六話

「はあ。これだけはやりたくなかったんだけどなあ」


「あれを使うのか、俺……」

「マジかよ俺。いや俺たちはいいんだけどさあ」

「よーし俺たち、死んだ俺たちはそっちにまとめておくぞ」

「がんばれよ俺。そりゃ俺もがんばるけども」


 一人でも旅を続ける。

 そう決意したソフィア姫のために、サトルは覚悟を決めたようだ。サトルたちが動き出す。

 あるサトルはぐるぐると肩をまわして気合いを入れ、礼拝堂でやられたサトルを運んでいたサトルは一箇所にサトルを積み上げる。扱いがひどい。


「姫様、こちらに戻ってください。俺がなんとかします」


「サトルさん……?」


「すごいぞサトル、『聖火焔』をなんとかできるのか! ん? だったらはじめからやればよかったような」


「これをやるといろいろ大変なんだ。あとでわかるだろうけど」


「さすが最強のアタシより最強なサトル様! ところでアタシは関係ありませんよね? 見てるだけでいいんですよね?」


 サトルの呼びかけに応じて、聖火焔の中を進んでいたソフィア姫が戻ってきた。

 一ヶ月ほどともに過ごしたサトルを信頼しているのだろう。

 護衛騎士のプレジアも馬に変化しているドラゴンのベスタも、「なんとかする」と言ったサトルの言葉を疑う様子はない。


 遣東使に異教を持ち帰られたくない教会の妨害工作で、山々は青く燃えている。

 旅を諦めるか大きく迂回するか、あるいは通過できるソフィア姫一人で先に進むしかない、絶望的な状況。


 サトルは奥の手で『聖火焔』に対処するつもりらしい。


「さて、じゃあやりますか。並べ俺たち」


 スキル【分身術】と、冒険者として活動した2年間で後天的に身につけた()()()()()()()()を使って。


 サトルの指示に従って、アンデッド枢機卿との戦いで生み出したサトルたちが動く。

 青く燃える炎『聖火焔』の範囲の外で横に並んだ。


「行くぞ、俺たち! 『風嵐(ウィンドストーム)』」


 青い炎にニョイスティックを向けたサトルたちが魔法を放った。

 ニョイスティックの先から風の塊が生まれ、『聖火焔』に向けて飛んでいく。

 青い炎を風の塊が吹き散らした。


 一発あたりはわずかな範囲だが、いまサトルは70人ほどいるのだ。

 70発の風の塊は、たしかに『聖火焔』が燃える範囲を減らした。


 サトルが努力を続けて手に入れた、()()()()()()】による魔法である。


「ちっ、『風嵐』なのに『聖火焔』の中ではこれしか威力が出ないのか。予想以上にしんどそうだな」


 ソフィア姫とプレジアが目を見張り、サトルがボヤく。

 サトルがボヤいている間にも、サトルたちは行動を続けている。


「左舷の俺、弾幕薄いぞ! 何やってる!」

「それ言いたかっただけだろ俺48」

「オーンッ!」

「範囲をまるごと削るのは無理そうだなあ。道だけ優先させるか」

「ナイスアイデア俺72! こっちに集まれ俺たち!」

「集中して使ってくぞー。魔力が尽きた俺は後ろに退避しろ」

「わかってると思うけど、気絶するまで魔法を使うなよ俺たち!」


 広がるのではなく冒険者街道に固まり、街道を中心に前方と左右に『風嵐』を放っていく。

 ある程度削れたら前に進み、魔力が尽きかけたら後ろのサトルと交代する。

 人海戦術である。


「はあ。これじゃ追加で出すしかないよなあ」


 肩を落としたサトルが振り返る。

 ソフィア姫はキラキラした目でサトルを見つめ、プレジアは信じられない光景にあんぐり口を開けて、ベスタはサトルの群れを前に腰が引けている。

 ソフィア姫と目が合ったサトルは、苦笑いして前方に向き直った。


「しゃあない、やると決めたんだ、がんばれ俺。分身の術ッ!」


 杖を横に構えてポーズを決めるサトル。

 と、サトルが増えた。

 一人だったサトルが100()()に。


 この世界に来たサトルが最初から持っていたチートスキル【分身術】の効果である。

 魔力が尽きかけて後方に退避していたサトルも、なぜか一緒に決めポーズしている。戦隊モノか。


 すでにいたサトルと合わせて200人のサトルの群れである。

 うち30人はアンデッド枢機卿との戦いでやられて道端に積み重ねられている。ホラーっぽい。


「サ、サトルさん? その、どれぐらい分身できるのでしょうか?」


「さあ。でも、今日は限界に挑戦することになりそうです」


「なんだかここまで同じ顔の人間が揃うと気持ち悪いなサトル! すまん、サトルに助けられているというのに私はなんてことを!」


「いや、気にしなくていいぞプレジア。正直、俺もちょっと気持ち悪い」


「ひっ。サトル様が一人サトル様が二人サトル様が100人アタシは馬アタシは馬アタシは馬、ひひん」


 170人のサトルが人海戦術するのを見て、ソフィア姫とプレジアはちょっと引いている。

 いや、当のサトル本人も引いている。

 ベスタにいたっては現実から逃避して死んだ魚のような目だ。馬、もしくはドラゴンなのに。


「これでもキツそうだな。分身の術ッ!」


 サトルがまたポーズを決める。

 さらにサトルが増えた。


 200人いたサトルが増えて、1000人に。

 四桁のサトルである。


 二人と一頭が「ひっ」と息を呑んだのは仕方がないことだろう。

 サトル本人さえドン引きであった。

 同じ顔、同じ背格好、同じ装備で1000人並んでいるのだ。ホラーである。


 ともあれ、こうして1000人のサトルのスキル【風魔法】によって街道付近の聖火焔が消され、遣東使たちは山を進んでいくのだった。


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