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第十三話

「さて。俺たち、祭壇のあたりにめぼしいものがあったら確保しておいてくれ。ほかの俺たちは教会内を、その後は平屋の方を捜索しよう」


「サ、サトルさん? ここはダンジョンではありませんから、それはドロボウでは」


「何たる慧眼! さすがです姫様! そうだぞサトル、いくら『教会』が私たちに敵対しようとも! 窃盗はよくないだろう!」


「わかってる、わかってるんだ。でも俺の考えが確かなら必要なことだと思う。……先に一度、外に出るか」


 サトルの指示を聞いてサトルは異端審問官の亡き骸や法衣、持ち物を調べ出し、サトルは礼拝堂の中をうろうろと捜索する。

 そんなサトルを置いて、サトルは教会の扉を出て前室を通り抜け、教会をあとにする。

 ソフィア姫とプレジアは、突然のサトルの行動に首を傾げながらついてくる。

 もちろん馬の、いや、ドラゴンが変化した馬のベスタも。




 教会の外に出たサトルは、回廊と石を積み上げた平屋の横を通り過ぎる。

 ソフィア姫もプレジアもベスタも続く。

 礼拝堂を調べ終わったのか、大量のサトルもあとに続く。無傷のサトルも、怪我をしたサトルも、倒れたサトルはサトルに担がれて。


「サトルさん? どこへ向かっているのでしょうか?」


 サトルたちがいる崖の上を陽の光が照らしている。

 建物をまわりこんで、サトルは見晴らしのいい場所までやってきた。

 崖から周囲の山々を見つめて、サトルは大きくため息を吐いた。


「ああ、やっぱりか……」


「何を、あっ。そんな……わたくしたちは術者を倒したのに」


 サトルの視線を負った姫様も気がついたようだ。


 ()()()()()()()


 儀式魔法『聖火焔』で、山肌を()()染めている。


 魔法を使ったアンデッド枢機卿は、消滅したのに。

 敵を倒しても目的が果たせないのでは「勝利」とは言えないだろう。


「なぜだ! なぜ『聖火焔』が消えてないんだ!」


「異端審問官がアンデッド枢機卿を召喚する前から『聖火焔』はあった。だからいなくなってもなくならないんじゃないか、とは思ってたんだけど」


 ソフィア姫はふらりと地面にヒザをついた。

 護衛騎士のプレジアが覚束ないソフィア姫を抱きしめる。

 ベスタはどうしたらいいかわからないようで、落ち着かなげにウロウロしている。


「ベスタの時みたいに言うことを聞かせられるかもしれないって思ってた。でもアンデッド枢機卿は魔力と生命力をあわせて一つのエネルギー源にしてて、途中で止めたら範囲魔法で反撃されるかもしれなかった」


 サトルが呟く。

 囲んでボコッて心を折る前提だったらしい。さすが聖火焔に燃やされる男。悪しき心のおっさんである。


「それはそうだが! しかし、『聖火焔』は消えていないのだ! 私たちはどうしたら!」


「……とにかく、戻りましょう」


「そうですね。急げば陽が落ちる前にふもとまで下りられるでしょう」


 険しい山道を登って修道院に来たのは、教会に直談判して旅路を阻む『聖火焔』を消してもらうためだ。

 だが、それは叶わなかった。


 動揺するプレジアよりも先に、ソフィア姫は落ち着きを取り戻したようだ。タフな幼女である。


「アレを下る。馬の姿のまま下り。がんばれアタシ、ブレスだって出せたんだきっと爪だけ出すとかできるはずイケるイケるぞだってアタシは最強だから」


 死んだ魚のような目をしてブツブツ言うベスタを連れて、サトルたちは来た道を戻っていった。

 道中はベスタが自分を励ます独り言以外の会話はない。

 重苦しい帰り道である。


 ちなみに、サトルはまだ分身を吸収していない。

 山道を下りつつ、一部のサトルは修道院内に聖火焔を消す手がかりが残ってないか捜索してから合流するつもりのようだ。

 それとサトルは、疲労を吸収してケガや死を追体験したら、険しい山道を下れなくなることを懸念したのだろう。

 何人ものサトルがいて、途中から大量のサトルが合流したにもかかわらず、やはり下山の道中は静かだった。



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