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第十二話

「よしベスタ、馬のままブレスを頼む」


「えっ。アタシいま馬の姿でドラゴンとは違うっていうか爪も牙も喉袋もないし体だって変化してるしそもそもサトル様が馬になってつぐなえって、ひひん」


「がんばれベスタ! できる、ベスタならきっとできるとも!」


「わたくしからもお願いできませんかベスタさん。このままではサトルさんが何度も死ぬことに……」


「ひ、ひひーん」


「本質はドラゴンなんだ、ファンタジーを信じろ。イケる。ベスタならイケるって」


 困惑してダラダラと汗を流すベスタをサトルが煽る。

 護衛騎士のプレジアとソフィア姫も、ベスタに懇願する。

 騎士のプレジアには遠距離攻撃の手段がなく、まだレベル26のソフィア姫はアンデッド枢機卿ほどの魔法を使えない。


 ちなみに、アンデッド枢機卿はサトルたちの会話をぼーっと聞いているわけではない。

 サトルたちが話している間にも、サトルたちはニョイスティックを伸ばして嫌がらせのようにアンデッド枢機卿を攻撃している。

 何人かのサトルは、アンデッド枢機卿の『神滅光線(ホーリーレイ)』という溜めが少ない単体攻撃魔法で倒された。やっぱり神を滅するらしい。枢機卿なのに。


「ほら早く! がんばればイケるってベスタ……なんならまた囲んで」


「やりますやってみますアタシがんばります! んんー!」


 サトルの不吉な呟きを聞いたベスタが大きく息を吸い込む。

 とりあえず試してみる気になったらしい。


「ええい、チマチマとうっとうしい邪教徒どもめ! こうなればいま一度『|神滅の光《ホーリーライト』を」


「なんだかイケそうな気がしますサトル様!」


「よし、やれベスタ! 続くぞ俺たち、分身の術ッ!」


 ベスタの自己申告に、サトルはふたたびスキル【分身術】を使った。

 一人だったサトルが続々と増える。


「アタシはドラゴンなんだ! アタシは最強なんだ! くらえーーー!」


 ベスタが叫ぶ。

 口から、ブレスが出た。


 ドラゴン最大の攻撃にして遠距離攻撃、ドラゴンブレスである。

 いや、いまは馬なのでホースブレスか。ベスタのブレスは水を吐き出すタイプだし。ホース違いである。


「馬がブレスだとッ!? くっ、『聖なる盾(セイクリッドシールド)』!」


 アンデッド枢機卿の眼前に半透明の光る壁が展開された。

 ブレスがぶつかる。

 光壁はブレスを止めたが、ベスタのブレスはまだ続いている。


「ぬおおおおおッ! なんだこれは! ドラゴンのブレス並みではないか!」


 続々と増えたサトルがブレスの左右を走る。


 光る壁がブレスに押され、アンデッド枢機卿がさらに魔力を流し込む。

 異端審問官から魔力と生命力を強奪した時とは逆に、アンデッド枢機卿の体から肉が失われる。

 肉が減って骨と皮だらけになり、皮は枯れ木のような質感へ。

 朽ちるようにぽろぽろと皮が剥がれ落ちて、法衣に隠されていない手や顔に白骨が見えていく。

 やがて。


「すみませんサトル様アタシもう限界でブレスで倒しきれないってアタシって最強じゃなかったんだなあ」


 ベスタのブレスが止まった。


『ふフ、ふはハハはッ! 危ウいところデあッタ! 異教徒どモメ、殺すノではナク魔力も生命力も我が強奪(ドレイン)してクレよウ! (にえ)とナル栄誉ヲ喜ぶガ――ハ?」


 スケルトンに戻ったアンデッド枢機卿が、赤い熾火を怪しく光らせて嗤いかけて、固まった。


「よくやったベスタ! 強奪(ドレイン)させる隙なんて与えるか!」


 アンデッド枢機卿がブレスを防いでいる間、サトルは祭壇に近づくべく走っていた。

 ブレスの範囲外の左からサトルが走り、右からもサトルが接近する。

 続々と増えたサトルたちはすでに数段のステップを上がり、前後左右からアンデッド枢機卿を取り囲んだ。


「チェックメイトだ。さあ、囲んでボコるぞ俺たち!」


「任せろ俺! オレックの仇討ちだ!」

「これはオレックの分! これはオレトゥエルヴの分! これは俺の分!」

「全員俺なんだけどな。俺十三、まず足を崩すぞ」

「抜け目ないな俺! じゃあ俺は腕だな!」

「俺30、杖と聖印を狙え! マジックアイテムかもしれないから!」


『ゴふッ、異教徒ドモめ、グっ、なンタる、ガっ』


 サトルが円盾を押し付けて杖を手放させ、足を砕くべくサトルがニョイスティックを振るい、あるサトルは腕を殴り、サトルの隙間からサトルが頭を突く。

 どれほど高レベルであっても、魔法を使うには時間が必要だ。

 サトルはアンデッド枢機卿に一瞬のスキも与えることなくボコるつもりらしい。


 杖を取り落とし、聖印が割れ、法衣が破れる。

 魔力と生命力を失ったのか、アンデッド枢機卿の全身が白骨化したスケルトンに戻り、四肢の先から次第に崩れていく。


「サトルさん! わたくしが『ターンアンデッド』を」


「あー、姫様はここにいてください。魔法使い相手には油断大敵です」


「な、なんというか、えげつないなサトル! だが姫様を守るためだ、サトルの強さを称賛しよう!」


「ひっ。アタシは大丈夫アタシはがんばったアタシは叩かれないアタシは大丈夫アタシは馬」


 サトルはソフィア姫もプレジアも近づける気はないらしい。

 一人、いや、一頭の目が死んでいる。


「ああ、ベスタはよくやった。それにしても……ダメージを与えると崩れるのか。これはもしかしたら」


「サ、サトル様がアタシを褒めてくれた……? ななななんだろうこの気持ちアタシはドラゴンでそんな安っぽい女じゃないのに」


「そうだ、すごかったぞベスタ! 馬のままブレスを吐けるなんて!」


「ベスタさん、ありがとうございます。ベスタさんのおかげで助かりました」


「へ、へへ、へへへ。まあな! アタシは最強だから! サトル様の次にだけど!」


 サトルたちに褒められてベスタは誇らしげだ。安い。

 というかそれ以前に、戦いは終わっていない。

 三人と一頭は教会の入り口でほのぼのと会話しているが、教会の奥ではボコボコと戦闘中だ。

 まあ、サトルたちが一方的にアンデッド枢機卿を攻撃しているだけなのだが。


『グオおォぉぉォォ、我ガ、死者の王にシテ古き枢機卿デアるコノ我ガ滅びるトイウノカ……前衛に金銀ガ、我ガ子ラがイレバ異教徒どモニ負ケナカったモノヲ………』


 最後に負け惜しみの一言を放って、アンデッド枢機卿が崩れた。

 砕かれた部分もまだ骨の形を残していた部分も、サラサラと崩れ去る。

 存在の一部だったのか、杖も法衣も崩れていった。


 アンデッド枢機卿を囲んでいたサトルたちが手を止めて、礼拝堂には静寂が訪れた。


「倒したか。……召喚されたモンスターだし、やっぱりこうなるよなあ」


「さすがサトルだ! あれ、私は今回も何もしていない気がする。護衛騎士……」


「どうか安らかにお眠りください」


 サトルとソフィア姫とプレジアとベスタ、遣東使たちの勝利である。


 いや。


 勝利と言うには、まだ早いかもしれない。




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