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第四話

「『聖火焔』が消えるまで一ヶ月と予想されている。でも俺たちを足止めするための工作だとしたら、消えてもまた同じ魔法を使われるかもしれない。それでも待ってみるのが一つ目の案」


 ぴんと人差し指を立てるサトル。

 思い悩んでいたソフィア姫も行動しようとしたプレジアも、サトルの指を見つめる。


 教会の儀式魔法『聖火焔』によって旅路を阻まれたサトルたちは、小さな町の広場でこれからの方針を話し合っていた。

 まずは選択肢を提示するつもりらしい。


「『冒険者街道』を諦めてぐるっと迂回するのが二つ目の案だ。陸路で行くならルガーノ共和国まで戻って旧モンターニャ街道を使うか、ティレニア王国まで戻って西マーレ街道からぐるっと山岳連邦ごと迂回するか」


 人差し指に続いて、サトルは中指を立てた。

 王都を出てからここまで来るのに、サトルたちは一ヶ月近くかけている。

 遣東使である一行が目指しているのは東の果て、日の本の国だ。

 どちらも「西に進む」ため、戻るだけでなく日の本の国からも遠ざかる。

 大きな大きな迂回路で、これまでの旅路が無駄になるどころか大きく回り道したことになる。


「三つ目はプレジアの案だな。教会の修道院に行って、聖火焔を消してもらうようお願いする。もし俺たちへの妨害工作じゃなければすんなり消してくれるかもしれない」


 サトルはぴっと親指を伸ばす。

 サトルは指で3を示す時、薬指ではなく親指を立てるタイプらしい。どうでもいい。


「四つ目。この前の異端審問官といい今回のことといい、教会が遣東使を敵視してることは明確だ。ティレニア王国の王都まで戻って、王宮と教会で話して折り合いをつけてもらう」


 親指が折れて、人差し指と中指と薬指と小指が立った。

 指を入れ替えるなら3の時に薬指を使うべきだ。ソフィア姫もプレジアも気にした様子はない。


「王都まで戻ったら、わたくしはもう一度旅に出られるかどうか……」


 サトルの四つ目の選択肢を聞いて、ソフィア姫がうつむいた。

 遣東使になることではじめて王宮の外に出られたソフィア姫にとって、どんな理由であれ帰還は喜ばしくないらしい。

 死亡率99.9%の遣東使なのに。


「ですが姫様、消えるまで待つか迂回するか、どんな方法で乗り越えてもまた妨害を受ける可能性はありますよ? 教会の勢力圏はまだ広がってますから」


「くっ! 姫様の邪魔をするなら私が粉砕してみせよう! 聖火焔も異端審問官も教会も! 姫様のためにならないのなら神だって!」


「落ち着けプレジア。これ絶対プレジア通れないだろ。信者じゃないどころか神敵になるって言い切ってるし」


 うつむくソフィア姫を見て、プレジアは憤慨している。

 聖火焔は教会信者なら通れるのに。


「案としてはこの4つでしょうか。……ベスタが飛べればなあ。なあ、無理すればほんとはイケるんじゃないか?」


「むむむ無理ですごめんなさいサトル様! アタシは最強だけど村の人は飛ばなくていいって飛ぶ練習したことなくて」


「翼はあるんだし、高いところから飛び立てばひょっとしたら」


「ええええええ!? あの、アタシは馬なんで! 白馬のつぐないに馬になったんで! だからそんなこと言うのやめましょサトル様?」


 外壁と馬をチラチラ見るサトルに、ベスタは身の危険を感じたようだ。

 イケる、イケるって! などと言いながら外壁の上から押し出されるのを想像したのだろう。

 これまでのベスタの扱いを見ているとあり得る。

 ひょっとしたらサトルは、馬に化けたドラゴンのベスタのことを「モンスター」としか見てないのかもしれない。


「……サトルさん」


「姫様、どれにするか決めましたか?」


「まずは、聖火焔を見に行ってみませんか? わたくし、本当にそんな魔法があるのか、わたくしたちは通れないのか試してみたいのです」


「おおっ、さすが姫様! そうだぞサトル、何事も自分の目で見て、自分の手で触れて確かめてみなければ! だから私が『八つの戒め』を破るのも仕方ないことで」


「途中までいいこと言ってたのに。プレジアは、見たい、触れたいって気持ちをちょっとは押さえろ」


 頭を抱えるサトル。

 機会があれば「自分から姫様に触らない」「姫様に見蕩れない」といった『八つの戒め』をすぐ破ろうとするプレジアに悩まされているらしい。


「でもまあ、姫様の言う通りですね。まずは行ってみましょうか。案外すんなり通れるかもしれませんし」


「はいっ!」


 小さな町から見える山々は、教会の儀式魔法『聖火焔』で燃えているのだという。

 宿の主人も冒険者ギルドでも同じことを言われたが、サトルたちはまだ直接目にしたわけでも触れたわけでもない。


 ひとまずサトルたちは、現場を見てみることにしたようだ。

 淡い期待を胸にして。




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