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第九話

「くっ、私としたことがなんたる不覚!」


「大丈夫ですかプレジア! いまわたくしが【回復魔法】で治します! 〈治癒(キュアウーンズ)〉」


「推定レベル40! プレジアと姫様の護衛を優先するぞ俺たち!」

「了解、んじゃ俺は足止めにかかるよオレイレブン」

「足止め? 別に、アレを倒してしまっても構わんのだぞオレジューク?」

「いやダメだからオレジューゴ。プレジアと姫様のレベリングは継続中だから」


 サトルたちがダンジョンに放り込まれてから三日。

 ダンジョン『異端者の地下墳墓(カタコンベ)』は予想以上に深かったようだ。

 スキル【分身術】を発動させて、大量のサトルが先行偵察・マッピングをこなしてもいまだ出口は見つらない。


「モンスターが強くなってる、か。やっぱりダンジョンボスを倒さないと脱出できないタイプなのかもな」


「ダンジョンボス? 大丈夫なのかサトル? 姫様の安全が第一だぞ!」


「んー、まあこの程度なら問題ないだろ。これ以上苦しくなったら分身の数を増やすし」


「なんと言いますか、サトルさんのそのスキルは反則ですね……」


「アタシもそう思います姫様! だから最強のアタシだってサトル様に負けるのはしょうがないわけでいえアタシが最強とかナマイキなこと言いましたごめんなさい」


 普通であれば、準備もせずダンジョンに放り込まれて三日もすれば疲弊する。

 そうでなくても、食料や水の心配をはじめる頃だろう。

 だがサトルたちは余裕だった。

 サトルの【分身術】とマジックバッグのおかげである。


「姫様は中位の魔法も使えるようになったみたいですし、そろそろ脱出しましょうか」


「そうですねサトルさん。きっとわたくしのレベルはかなり上がっているはずです!」


「まだ幼いのに天才です姫様! サトル、私も本気を出そう! 天才な姫様の護衛騎士たるこの私も!」


「あー、ならそれより、ダンジョンを出た後に本気を出してくれ。俺はしばらく寝込むことになりそうだし」


 サトルのスキル【分身術】は強力だ。

 レベル64のサトルと同じレベルと装備の分身を生み出すのだ、チート(ずる)と言われてもしょうがない反則っぷりだろう。

 だがデメリットも大きい。


「ダメージはほとんど受けてないしまだ死んでないけど、分身は疲労も回復しないからなあ」


 分身は魔力も体力も、ケガも死も回復しない。

 分身を吸収する際、サトルは分身が使った分の魔力や体力の減少も吸収して、痛みや死を追体験するのだ。

 今回のようにダンジョンにこもると、分身の人数分の疲労を受け持つことになる。

 時おり入れ替えて数人分の疲労を吸収しているが、すべて解除した折りには大変なことになるだろう。

 なにしろ数人の分身を吸収しただけで、ダルそうに歩いているほどなので。


「よし。んじゃ一気にいくか」


 サトルはソフィア姫とプレジアのレベリングをここまでにして、ようやく本気でダンジョンを攻略する気になったようだ。余裕か。




「はっ、ははは、半日、『一気にいく』とサトルが言ってから半日だぞ。これがサトルの本気か」


「すごいですサトルさん。強そうなスケルトンもゴーストも魔法使いや死神みたいなアンデッドも簡単に倒してしまうなんて」


「大丈夫大丈夫アタシは味方。いまアタシはサトル様の味方。大丈夫大丈夫やっぱりだめニンゲンこわいサトル様こわい二度と逆らわない」


「思ったより近かったな。たぶん次がダンジョンボスの広間だ」


 本気を出したサトルはさらに分身を増やし、50人でダンジョンの攻略にかかった。

 レベル40を超えると一流冒険者と呼ばれるところを、レベル64の武装したサトルが50人である。

 馬になったベスタはうつろな目をしてブツブツ呟いている。ドラゴンなのに。もはや不憫だ。


「姫様、護衛役の俺から離れないようにしてください。プレジアも、攻撃しようとしないで姫様を守ることに専念するように」


「サトル。本当に挑むのか? 相手はダンジョンボスだぞ? 出口を探す方がいいんじゃないか?」


「いまから探すのも面倒だしなあ。まあ大丈夫だろ、同じようなレベル帯のダンジョンを()()()()()()()()し」


「……え? サトルさん?」


「ダンジョンを踏破したことがある!? つまりサトルはダンジョン踏破者で『ぼっちの踏破者』とはぼっち道ではなくダンジョンを踏破して!? どどどういうことだサトル!」


「そうだ、ベスタ」


「はいっ! なんでしょうかサトル様!」


「戻れるんだったらドラゴンに戻っていいぞ。ダンジョンから出たらまた馬になってもらうけど」


「え? ほ、本当ですか? 引っかけじゃなくて? ドラゴンに戻ったら『俺との約束はどうした』ってアタシを叩いてくれるつもりじゃ」


「通路は狭くてアレだけど、広間はいけるだろ。突入したらドラゴンで」


「はいっ! はい!」


「よし、それじゃ行くか。姫様とプレジアは、10人の俺と一緒に様子を見ていてください」


 特に気負うこともなく、サトルがふらりと歩き出した。

 そのままダンジョン最奥、ダンジョンボスがいる広間に突入する。

 かつてサトルが踏破した『混世蟻の迷宮』のダンジョンボスに挑んだ時よりも気が抜けている。なにしろ当時のサトルのレベルは47で、いまは64まで上がっているので。




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