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第八話

 石の床は冷たいからと厚手の布が敷かれ、馬車に乗る可能性を考えて用意していた皮と藁のクッションを取り出し、このマジックバッグの中は時間経過がないのか固定化されているのか不明なんですけどと言いながら湯気が立つスープを配る。


 ダンジョン内の小部屋で小休止のはずなのに、三人と一頭はありえないほどくつろいでいた。

 主にサトルのせいである。


「はあ、このマジックバッグが『混世蟻の迷宮』攻略の時にあればなあ」


 とはいえサトルも、これほど快適なダンジョンアタックは初めてだった。

 10年前にダンジョンを踏破した時はマジックバッグがなかったのだ。あと気分も違う。

 保存食と水を背負ってのぼっち攻略だったので。


 クッションに座ってくつろぎながら、サトルはこれまでの戦利品を整理していた。

 この世界のモンスターはゲームのようにドロップアイテムを落として消えるわけではない。

 スケルトンは崩れ落ちてその場に残るし、ダンジョン外のモンスターも同様だ。

 何が気に入ったのか、敷き布の上で腹這いになった馬はガジガジと動物型スケルトンが残した骨を噛んでいる。


「武器や防具は売れそうだからいいけど……私物はなあ」


 何も装備していない骨だけのスケルトンもいれば、鎧や剣を装備するスケルトンもいた。

 中には服を纏っていたり、小袋に生前使っていたであろう金銭や私物が入っていたスケルトンも。

 サトルは捨てる物と持ち出す物を整理していたようだ。


「サトルさん、こちらによけられているものは何ですか?」


「冒険者証、商人ギルドの会員証、身元がわかる品です。どこかにあるだろうこのダンジョンに探索に来たのか、あるいはあの男に引きずり込まれたのかわかりませんけどね」


「こんなにたくさんに方が亡くなって……」


「姫様……私とともに、彼らを弔ってやりましょう。彼らだって暗いダンジョンでアンデッドとしてさまようより、姫様に葬られた方が幸せなはずです!」


 ショックを受ける姫様の肩を抱くプレジア。

 さっき『八つの戒め』を破って弱体化してすぐだったせいか、あっさり四つ目の戒め『自分から姫様に触らない』を破っている。姫様が危ない。


「それと、これですね」


 重ねていた羊皮紙を並べていくサトル。

 内容を見てとったソフィア姫とプレジアが目を見張る。


「サトルさん! これは!」


「そうです、姫様。()()()()()使()()()()()()()、ですね。今回の遣東使も殺られたようです」


 サトルが小さく首を振る。


「なんてこと……教会が遣東使を好ましく思っていないことは聞いていましたが……」


 ソフィア姫は手で口を押さえる。

 8歳なのに賢いのは王族としてふさわしくあろうと努力を重ねてきたのだろう。


「教会は直接手を下しているようですね。いや、殺したわけじゃないから直接じゃないのか?」


「だがサトル、進むほどアンデッドが強くなってきたとはいえ、遣東使全員がやられるほど強いとは思えないぞ? 騎士団から任命された強者だっていたはずで」


「強いモンスターがいるのか、あるいは食料や水がもたなかったか。脱出方法がないダンジョンは存在しないって聞いたことはあるけど」


「わたくしたちにはサトルさんがいて、マジックバッグがあるからこうしていられるのですね」


「それに最少人数ですからね。普通の遣東使は一組10人前後です。食料はともかく、水は人数分持ってたとしても三日分程度でしょう。とつぜんダンジョンに引きずり込まれたら」


「くっ、なんと卑劣な!」


 だんっ! と地面を叩くプレジア。

 腹這いになっていた馬がビクッと反応する。プレジアより強いはずなのに。


 反応は、馬だけではなかった。


 小部屋の石の壁から、するりとゴーストが現れる。


「すまん俺! 壁を抜けられた!」

「くっ、これだから非実体系は! いくぞ俺たち!」


 小部屋の出入り口を守っていたサトルや通路を守っていたサトルが慌てたように小部屋になだれ込んでくる。


「ゴースト……実体がなく武器が効かないモンスターですね。ここは【回復魔法】が使えるわたくしに任せてください!」


 ゴーストは非実体系モンスターだ。

 霊体しか持たないため、一般的な物理攻撃は素通りする。

 一方で火や風、水や光の攻撃魔法に弱く、また、〈ターンアンデッド〉や〈治癒(キュアウーンズ)〉といった【神聖魔法】の一撃で消滅する。

 スキル【神聖魔法】と同系統っぽいスキル【回復魔法】を持つソフィア姫が張り切るのも当然だろう。

 だが。


「ふふ、ご安心ください姫様! 私の剣は、父が祖先より代々受け継ぎし魔剣〈オーク殺し〉! 非実体系のモンスターにも力を発揮するのです!」


「オークが魔剣〈オーク殺し〉を受け継いできたってどういうことだ。アレか、部族間の闘争的なヤツか」


 ソフィア姫にいいところを見せようとしたのか、両手剣をぶんぶん振りまわしてゴーストの群れに突入するプレジア。

 猪武者ならぬ猪騎士である。

 プレジアが敬愛するお姫様は「あっ」と気の抜けた声を漏らす。せっかく張り切ったのに、見せ場は奪われたらしい。


「あー、姫様。いまは魔力を温存しておいてください。俺の武器はダンジョンで見つけたマジックアイテムで、ゴーストにも通じます。数を減らしたら魔法を使ってもらいますから」


「伸びろニョイスティック!」

「ふはははは! 見ろオレック、雑魚がゴミのようだ!」

「なんかぶんまわしてるだけで倒せて手応えがない」

「プレジア! 俺たち! 倒しすぎるなよ、少し姫様にも残しておけ!」


 小部屋になだれ込んできたサトルたちも、嬉々として手にした棒を振りまわす。

 四方から壁をすり抜けてきたゴーストたちは、あっさりその数を減らした。


「さあ姫様、さまよえる魂にトドメをお願いします!」


「えっと、では……〈ターンアンデッド〉」


 最後にソフィア姫が、魔法を発動させてゴーストを掃討した。


「……なんでしょう、この気持ちは。いえ、安全なのはいいことなのです。ええ、望まぬ不死者を救うことができたわけですし」


 ふたたび安全となった小部屋で、ソフィア姫が一人呟く。



 ダンジョン『異端者の地下墳墓(カタコンベ)』に放り込まれたサトルたち。

 予期せぬダンジョンアタックとなったが、攻略は順調なようだ。




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