第七話
異端審問官・ロッソのひょうたん型マジックアイテム『ズッカ・デル・ペレグリーノ』により、意図せずダンジョンに放り込まれたサトルたち。
三人と一頭は、最初の石室を抜けて通路を進んでいた。
「この通路は行き止まりだったよ俺」
「俺サン、こっちは分岐が多い。手伝いを頼む」
「待って一気に言わないで俺たち。地図を書くのけっこう大変なんだから」
「おかわり連れてきましたー。がんばれ姫様!」
「『異端者の地下墳墓』って言ってたか。思ったよりも造りが複雑で面倒くさいなこのダンジョン」
いや、三人と一頭だけではない。
先行偵察したサトルがマッピング担当のサトルに報告して、釣り出し担当のサトルがモンスターを連れて戻ってきて、様子を見ていたサトルがボヤく。
サトルがスキル【分身術】を使って、何人ものサトルを生み出したのだ。
レベルも装備もそのままに分身を作り出すスキルは、ダンジョン攻略に絶大な威力を発揮していた。
これが、かつてサトルがソロでダンジョンを踏破できた理由だ。自分で索敵して自分でマッピングして自分で討伐してきたのだ。さすが『ぼっちの踏破者』。
「姫様、新手のモンスターです! アンデッドたちよ、姫様のたおやかな手で安らかな眠りにつくがいい!」
「【回復魔法】が通じるんですもの、わたくし、がんばります。〈ターンアンデッド〉」
サトルが釣り出してきたスケルトンを、ソフィア姫が魔法で葬り去る。
分身たちがダメージを調整していたのだろう。
一回の魔法で、腕を壊されたスケルトンの集団はガラガラと崩れ落ちた。
「ふう。いえ、休んでいる場合ではありません。ここはダンジョンなのですから」
「姫様、なんと健気な……」
ふんす、と拳を作って張り切るソフィア姫。
ダンジョンで遭遇したアンデッド系モンスターは、すべてソフィア姫の手によりトドメをさされている。
遣東使として旅をはじめて以来、ソフィア姫がモンスターを倒すのは初めてのことだ。
8歳の美女児は張り切っているらしい。
あるいは、死者に安らかな眠りをもたらすという使命感に燃えているのか。
「サトル様がいっぱいだけど味方。今回は味方。大丈夫だアタシ。大丈夫大丈夫大丈夫」
三人と一頭とサトルの分身たちは順調にダンジョン探索を進めていた。
大量のサトルにトラウマを刺激されたのか、一頭は目の光が失われている。
「次によさそうな小部屋を見つけたら休憩しましょう」
「サトルさん、でもそれではここから抜け出すのが遅く」
「姫様、ダンジョンで無理は禁物です。このダンジョンがどこまで続くのかわからないんですから」
「そう、ですね」
「まあ長丁場になっても大丈夫ですよ。マジックバッグには、食料も水も大量に入ってます」
そう言って、親指で背中の大型リュックを指さすサトル。
ダミーのリュックの中には、サトルがダンジョン踏破した時に入手した肩掛けのマジックバッグが隠されている。
見た目以上に収納できるマジックバッグには、食料も水も大量に用意されているらしい。
「抜け目ないなサトル! 姫様、ここはサトルに従うべきです。戦闘とは思った以上に体力も気力も使うものですから! そうだ、なんなら私が姫様を背負って」
「ふふ、大丈夫ですよプレジア。ありがとう」
ダンジョン『異端者の地下墳墓』。
このダンジョンは通路も小部屋も石造りで、天井が低いタイプだった。
ドラゴンが化けた馬・ベスタは頭を下げて窮屈そうにしている。
攻撃担当を任されたこともあって、ソフィア姫は騎乗していない。
「よし、ここは大丈夫そうだ。休憩していきましょう。守りは任せたぞ、俺たち」
「了解! ついでにマッピングも進めておくよ俺」
「弱気なことを言うなオレゴ。倒してしまってもかまわんのだろう?」
「いやダメだから俺十三。姫様のレベリングもするから」
「マッピング優先、モンスターは弱体化狙いで、倒すのは魔法使うようなヤツや特殊攻撃してくるヤツだけで!」
「まあ基本は見つからないように探索メインでいくぞ俺氏!」
「ひさしぶりのダンジョンだからな。油断するなよオレッパチ」
静かな地下墳墓にサトルたちの声が響く。騒がしい。
とにかく、サトルとソフィア姫とプレジアは休憩することにしたようだ。
大量のサトルを前に、うつろな目をした馬も。
一頭を除いて、ダンジョン内なのに余裕なことである。




