第六話
「はあ、ほんと魔法やマジックアイテムって意味がわからない。剣と魔法のファンタジー世界に憧れてたのに実際はこんな理不尽なんてなあ」
「……サトルさん?」
「ああ、気がつきましたか姫様」
「姫様ぁ! 私は心配で心配でもう……! 何があっても姫様を守れるようにならねば!」
「サトル様、ここならしゃべっていいよね? アタシたちしかいないもんね?」
ソフィア姫が目を開けると、いつもと変わらぬ面々がいた。
ひょうたんに吸い込まれたあと、最後に目を覚ましたのはレベル11のソフィア姫だったらしい。
「ここはどこでしょうか? わたくしたちは、ルガーノ共和国の山道にいたはずで」
「姫様が寝てる間に分身に調べさせました。どうやらここはダンジョンです」
「ダンジョン? そんな、どうやって!?」
「あのひょうたんが転移系のマジックアイテムだったんでしょう。でもこれはちょうどいいかもしれません」
「ちょうどいい、ですか?」
「何を言っているんだサトル! どこともわからないダンジョンなのだぞ! 私たちだけならともかく、ここには姫様もいるんだ!」
「そのへんは心配いらないだろ。俺はレベル64でスキル【分身術》があるし……なんならベスタをドラゴンに戻せばいい」
「も、戻ってもいいんですかサトル様、はっ待てよこれは罠かもしれない、戻ったらきっと『馬になるんじゃなかったのか』ってまたサトル様に叩かれ……叩かれ……叩いてもらえる……」
三人と一頭は、薄暗い石室にいた。
出入り口は一箇所だけで、その通路の先は真っ暗だ。
ソフィア姫とプレジアを安心させようとしたサトルの言葉にベスタが反応している。それにしても叩いてもらえるとは何なのか。目が覚めたついでに目覚めたのか。Mか。
「それに……ここのモンスターは、姫様のレベル上げにもちょうどいいかもしれない」
サトルの言葉を合図にしたかのように、暗い通路からカチャカチャと音が聞こえてくる。
プレジアはソフィア姫の前に出て、サトルは焦ることなく暗い闇を見つめ、ベスタは特に動かない。
「下がってください姫様! たとえサトルが高レベルだろうと姫様を守るのはこの私です!」
「心構えは素晴らしいけど、さっき姫様に触れたから四つ目の戒め『自分から姫様に触らない』を破って弱体化しただろプレジア。まあさっきのはしょうがないと思うけど」
通路に向けて大盾を構えるプレジアに、サトルの冷ややかな声がかかる。
プレジアのスキル【八戒】は、事前に定めた『八つの戒め』を守ることで徐々に身体能力が強化されていくスキルだ。
ソフィア姫がひょうたんに吸い込まれるのを止めるため自ら触ったプレジアは、身体強化が解けて元通りの力になっている。
それでもレベル32で、オークの血も流れているため力が強いことに変わりはない。
「それに、そんなに構えなくて大丈夫だぞ。このダンジョンのモンスターは」
サトルの言葉の途中で、カチャカチャと音を立てる存在が石室に侵入してきた。
「おおっ! サトル様コイツらなんだかおいしそうでかじっていいですか? ニンゲンじゃないからいいですよね? ダメ?」
「これは……なんて痛ましい……」
「アンデッドにも情けをかけるなんて! 優しすぎて天使です姫様!」
現れたのは、骨を鳴らして迫るモンスター。
スケルトンである。
カチャカチャと石の床を鳴らして、5体のスケルトンが現れた。
「推定レベル5~10の雑魚スケルトン。姫様のレベリングにはちょうどいいだろ。出口を探しながら姫様かプレジアに倒させてレベル上げしよう」
「サトルさん、でもこの方たちは人間で、わたくし」
「姫様、彼らはもう死んでいるんです。意識もなく体だけモンスターとして生きるよりは、倒してやった方が彼らのためでしょう」
「そうです姫様! もし私がアンデッドになって姫様に剣を向けるようなことがあったら死んでも死に切れません!」
「プレジア……でも、死んではダメですよ?」
「私の死を想像してちょっと涙目になった姫様が可愛すぎるぅ! わかりました姫様! 私は死にません!」
喜ぶプレジアを見て、ソフィア姫がくすりと笑う。
どうやら気を持ち直したらしい。8歳なのにタフなのは王族として育てられたためか。
「姫様のスキル【回復魔法】で〈ターンアンデッド〉を使えますか? なければダメージを入れてから〈治癒〉でトドメを差してもらいますけど」
サトルはサトルで気にしなさすぎである。オンナゴコロはよくわからないらしい。さすが『孤独を貫く男』である。
カチャカチャと動きが遅いスケルトン5体が近づいてきても、一行は余裕だった。
戦いがはじまり、サトルとプレジアがあっさりスケルトンの手足を砕く。
さらに押さえつけられてスケルトンの身動きが取れなくなったところで、ソフィア姫が「えいっ!」とトドメを差した。
実際、余裕なようだ。
ともあれ。
教会の異端審問官のマジックアイテムにより、一行はダンジョンに飛ばされた。
出口を探しつつ、サトルはソフィア姫のレベリングに利用するつもりらしい。
もしダンジョン攻略の様子を見ていたら、異端審問官は涙目になったことだろう。




