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第二話

「うわあ、うわあ! これが山岳連邦なのですね! わたくし、はじめて国の外に出ました!」


「山岳連邦は小さな国が集まってできた連邦国家ですから、正確には山岳連邦・ルガーノ共和国ですね」


 無事に国境の検問を通り抜けて、一行は山岳連邦・ルガーノ共和国に入った。

 ソフィア姫は「外国」に興奮してキョロキョロとせわしなく視線を動かしている。


 国境の石壁の先に広がっていたのは石造りの小さな街だ。

 ティレニア王国側と違って物々しい砦はない。


「こちらは石でできたおウチが多いんですね! 王都や途中の街や村とも違います!」


 興奮のあまり、ソフィア姫は年相応の口調になっている。


「ここは防衛のためでしょうけど……ああ、でもルガーノ共和国のほかの街もほとんど石造りだったかなあ」


 一方で、馬の手綱を引くサトルは平常心なようだ。

 サトルは山岳連邦出身ではないものの、転移して2年間をこの地で過ごした。

 街の景色は見慣れたものだったのだろう。


 三人と一頭が歩く大通りは土の道だ。

 左右に並ぶ家は頑丈そうな石造りで、屋根と窓の鎧戸だけが木でできている。

 ティレニア王国の王都と同じように四階建て・五階建ての集合住宅が多いようだが、石造りのせいか圧迫感があった。

 扉や鎧戸、屋根に赤や黄色の鮮やかな色が塗られているのは、その圧迫感を軽減させるためかもしれない。

 中には小さなバルコニーに鉢植えを置いて、外壁に植物を垂らしている家もある。


「それよりもサトル、この国の人間はずいぶん強そうだな! まるで騎士団の宿舎にいるようだ!」


「あー、たしかに。なにしろこのあたりは『戦士の生まれる場所』で『冒険者の聖地』ですからね」


「わたくし、聞いたことがあります。ルガーノ共和国の民はみな屈強な戦士なのだと」


「『みな』は言いすぎですよ、姫様。戦える人が多いのは間違いないですけど」


「ほう、そうなのかサトル?」


「ああ。冬は街や村から移動するのが難しくなるだろ? そうすると、住人だけで外敵を撃退しなきゃいけないわけだ。雪がない時期に移動するにしたって、モンスターを撃退しながら山の中を移動するんだし」


「なるほど、そういうことか! ティレニア王国が攻め入らぬのも納得だな!」


「大声で物騒なことを言うなプレジア。それと……山岳連邦、特にこのルガーノ共和国にはダンジョンが多いんだ」


「まあ! わたくし、ダンジョンも行ってみたいです」


「目を輝かせる姫様の笑顔は太陽のようです! 行きましょうダンジョンへ! サトル、案内を頼む!」


「いや行きませんよ姫様。俺たちの目的地は日の本の国ですから。そもそも姫様が危険なところに行こうとするのを止めろ護衛騎士」


 ソフィア姫、はじめての外国に浮かれているらしい。

 ちなみに一行は遣東使としての通行証で検問を通過している。

 サトルやプレジアと同様に、ソフィア姫も王族ではなく「遣東使」としての通行証で。

 ソフィア姫が浮かれているのは、「王族」だと意識しなくていいからかもしれない。


「さて、おすすめされた宿はここですね。姫様、本当にこれまで通り同室でいいんですか? 護衛する方としてはありがたいですけど……」


「衝立てがあればかまいません。せつやくしましょう」


「姫様と同室……ひさしぶりに野宿じゃなく……待て私、ひょっとして姫様は湯浴み、せめてお湯で体を拭われるのでは? これは手助けしなければ!」


「心の声が漏れてるぞ。『八つの戒め』はどうした、六つ目は『姫様の着替えを覗かない』だったろ」


「そうだサトルさん、ドラゴンさんはどうしたら……」


「馬小屋でいいんじゃないでしょうか? というか、そもそも宿に入れられませんし。……小声なら話していいぞ」


 ソフィア姫とプレジアはすでにサトルのレベルを知っている。

 サトル、護衛として二人を守っていることを隠さなくなったようだ。

 まあ二日目以降、宿に泊まるときは同室だったのだが。8歳のソフィア姫はとうぜん、サトルはプレジアにも手を出していない。着替えを覗くことも清拭を見ることもなかった。サトルは紳士なのだ。あと素人童貞。


「アタシはずっと洞窟で暮らしてたから雨風がしのげればどこでも問題ないですただその少しお腹がすいてきまして」


 首に腕をまわされた馬が、サトルをチラ見しながらささやく。

 サトルがヘッドロックしたのは、喋る馬であることがバレないよう耳を近づけたかったのだろう。きっとそうだ。しつけでも調教でもない。


「よし、馬小屋でOKと。あとは食事か。道中に倒したオオカミでいいか? ドラゴンなんだし生で食えるだろ?」


「はいそれで充分ですというかむしろいいんでしょうかアタシなんかに?」


「どうせ処理に困ってたからな。ただのオオカミじゃ毛皮も捨て値だし。あとで布袋にでも隠して持っていこう。人間には食べてるところを見られるなよ?」


「はいわかりましたありがとうございます!」


「いいか、俺たちの白馬を食べたようにほかの馬を食べたら……」


 サトルが、馬の首にかけた腕に力を込める。

 ギリギリと馬の首が絞まる。

 元はドラゴンのはずなのに、レベル64の人間にとってはこれぐらい雑作もない。


「大丈夫です二度とニンゲンも馬も襲いませんだから離してもらえないでしょうかあれでもなんだかちょっと気持ちよくなってきた気が」


 サトルが馬を解放した。

 着実に調教が進んでいる。


「よし。宿の人や客と揉めごとはごめんだからな。この国の人間はほんとナチュラルボーン戦士だから」


 山岳連邦では男も女も、身長が高くてがっしりしている人間が多い。

 サトルはレベルも高くスキルも強力で、戦えばとうぜんサトルの方が強い。

 それでもサトルは、見た目でビビってしまうらしい。しょせん小物、いや、小役人である。




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