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プロローグ

野球なんて大嫌い。

何度この言葉を口にしたんだろう。


秋の寒空の下で一人の少女が佇んでいた。少女は、小さな公園で鮮やかに葉を紅に染めた樹木に背を預け、遊具に夢中になる子供達を眺めながらため息を漏らす。

周りを行き交う人々が皆一様に暖かそうな衣服に身を包んでいる中、少女が身に付けているそれは、薄着でとても簡素な物だった。ショートヘアーを冷たい風に揺らす彼女の表情はとても寂しそうに見える。


「お母さん……」


少女はうつ向いて呟いた。すると、彼女の視界に一つ丸い物が転がり込んできた。それは、少女の足にぶつかると動きを止める。野球ボールだ。彼女が顔を上げると、小学生低学年と思われる女の子が手を振りながら声をあげる。


「お姉さーん、ごめんなさーい!ボール取ってー!」


どうやらキャッチボールをしていてボールを取り損ねてしまったらしい。

少女は、ボールを拾い上げると、じっとそれを見つめ呟く。


「野球なんて……大嫌いだ……」


少女が暫くそうしていると、先程の女の子が再び声をあげる。


「お姉さーん!早く投げてー!」


その呼びかけにハッと声のする方へ顔を向けると、そこには満面の笑みで手を振る女の子の姿があった。

少女は一呼吸おくと、握りしめていたボールを女の子へ優しく投げ返してやる。

女の子は、飛んでくるボールをキャッチすると「ありがとー!」とにこにこ手を振ってくる。

それを目にした少女は、面白くなさそうに顔を背けた。その姿に女の子は不思議そうに首を傾げる。


「野球なんて……」


少女はそう呟くと足早にその場を後にした。その背中に沈みかけた夕陽が注ぐと、長く延びた彼女の影が寂しげに揺れていた。

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