表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/44

44 おまけ

 13時30分


「我々は、媚びます!」


 リハーサルが終わり、客入れの音楽が聞こえ始めた小劇場の夏臭い楽屋。鏡がいくつも並んだ屋根裏みたいな地下の部屋に、尾張総統の宣言が響き渡った。


「我々は、全力を持って、プロデューサーに媚びて行きます!」


 ふんぞり返って叫ぶその顔には、先輩達と現役俳優がわいのわいのと施した舞台用の濃い目のメイク。


「結果、番組さえ続いてしまえば後はこっちのものなのです! 恥を捨て、プライドを絶ち、信念を持って行動してください! 以降、クソプロデューサーの呼称はプロデューサー様となります!」


 目を白黒させながら拳を振り上げ叫ぶ少女に、ダンス部の先輩二人からパチパチと拍手が巻き起こる。もう一人は夏期講習があるらしく、残念ながら勢ぞろいとはならなかった出演者の賛同を得た提督は満足げに頷いて。


「それでは、参りましょう!」


 さっきまで何度もえづいていた緊張が二転三転したらしく、おかしなテンションに脳味噌をやられたままブリキの様に歩き出した。


 少し後ろからそれを笑って見ていた恭平は、しんがりをかって出て薄暗い舞台袖へと移動した。黒くて厚い暗幕越しにも感じる人の熱が、ざわめきが、いやがおうにも胸を昂らせる。


 そして会場に掛かっていた音楽が一瞬大きくなると、一足早く本日のMCを担当する兄さん方が慣れた様子で頷き合って舞台へと飛び出して行く。途端に、キャーという黄色い声援が巻き起こる。


「本当に人気あるんだ、アスカさん」

「……う、うん」


「うわー、すごい。お客さん一杯いる!」


 隣のちっこいのに話しかけた恭平のすぐ目の前で、暗幕をめくっていたダンス先輩が、首をひっこめて振り返る。


 金曜パーソナリティの三人が繰り広げるこなれたトークを聞きながら、万遍マンデーの二人もつられる様に客席を覗いてみる。すると。


「……おおおおお」


 八十人位か、びっしり並んだ人の列に尾張ユリカの頭が震えた。


 その頭の少し上で、恭平はちょっと笑った。

 だって、そこにいたのは九割以上が二十代と思しき女性たち。そのリアクションと視線の先を見る限り、どう見ても、現在は某有名劇団に所属しているらしい『波多野飛鳥』のファンなのだ。


「……」


 はいはい結局顔ですかと捻くれる心と裏腹に、頭の中では立ち振る舞いをどうしようと考える。きっとほとんどの人が月曜日なんか聞いていないだろうし、ここはアスカさんを立てる様に後輩キャラに徹した方がお客さんは楽しみやすいかな、とか。


 よし、そういう感じで行こうと決めて、ちらりと顎の下の相方の様子を窺う。すると、予定調和には行かないひねくれ少女はカッと目を見開いて。


 あっ、と思った瞬間だった。


「それじゃあ紹介しましょう! 雑ヶ谷放送局月曜日、万遍マンデーのお二人――」

「オルァー! どうだ見たかプロデューサー様よぉ! 満員じゃボケェ!」

「ちょっとちょっと、尾張さぁーーん!!」


 計算も予定もぶっ飛ばして暴走する相方の背を追いかけて、長江恭平はライトの下へと飛び出した。


 少なくとも、俺とあそこのサングラスの女の子は、そんな君の事が大好きなんだぜ、と。


 だから背中とフォローは任せとけ、と。

 例え誰も見てなくても、誰に見られていようとも、精一杯。真剣に。全力で。やりたい放題ぶちかましちゃえなんて。


 さあ次は何を言うんだよ相棒と言う期待と、それで何をどうしてくれようかっていう企みで馬鹿みたいに笑いながら。

 

                             おしまい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ