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42 さよなら、またいつかどこかで


「――ではでは本当にありがとうございました! 万遍マンデー、最終回。お相手は、あなたの長江恭平と!」


「誰のモノでも無い尾張ユリカでしたっ! バイバイ!」


「また日曜に!」

「来れる人はホント来てね!」

「お願いします!」


 ガタン!

「この通りだっ!」


 ガタンッ!

「この通りですからっ!」


 尻で椅子を吹っ飛ばしマイクに向かって激しく土下座を決め込む二人の声が自然と遠くなっていき、時計の数字が二十になると同時にフリーミュージックへと切り替わった。


 ほんの少し、音のある静寂が辺りを包む。


 耳がキーンと鳴るほど静かになったスタジオにも、リスナーにも、きっと同じ様に。


 同じ声と、同じ気持ちと、同じ時間が少しだけ流れて。


「……んっ」


 と思いっきり伸びをしたユリカが、黙って席を立った。


 トコトコと階段を降りる相方の背を横目に、恭平はスタッフ陣となんでもない短い会話を交わし、テーブルの上の荷物を掴んでピラミッドの反対側から降りて行く。


 順番に壇を降りる爪先を見つめながら、なんだろな、とちょっと笑った。


 サプライズのイベント告知は、本当にうれしかったけど。『次がある』と言う気持ちが、最終回に浸る気持ちをあやふやにしてしまったような。

 もしもずっと番組を聞いてくれていて、だけどイベントに来れない人がいたとしたらどう思うだろうとか。

 自分達は『またね』でいいけれど、ここでサヨナラの人もどこか遠くにいるかもしれなくて。いてほしくて。というか、むしろそう言う人達に向けてやっていたはずの番組なのに。

 ふざけたままでも、笑いながらでも、もっとちゃんとお別れの言葉を言わなくちゃいけなかったんじゃないかとか、そんな。


 そんな――。

 

 微かな満足感を飲み干すと同時に百倍くらいの後悔が込み上げて来て。


「んじゃ、お疲れな~」「それじゃあ、気を付けて」「ほいほ~い」


 ステージの上から振り返るアスカさんの笑顔とディレクターの眼鏡とヨイトの適当節に会釈を返した恭平は、唇をぐっと結んだまま地上へと繋がる黒塗りの階段を上がって行った。


 管理小屋の前で世織さんと話していたユリカと合流し、三人並んで坂上の神社まで歩き、にこにこ微笑むお爺ちゃんに『お世話になりました』と頭を下げて、二人宵色に染まった坂を下る。


 いつか冗談交じりに駆け上がったラジオ坂を下りる度、特に意味の無い言葉を適当に投げ合って、中腹の交差点で軽く手を振った。


「じゃ、また……日曜日に」

「ん。日曜に」


 一日ずれた別れ言葉が何故だか少し照れ臭くて、長江恭平は目を合わせる事も無く愛車と共に雑ヶ谷を舞う風になった。

 いつの間にか家に着き、取り置きされたちょっとだけ豪華な夕飯に『ありがとね』とお礼を言うと、母親はいたく感動していた。


 えへえへと笑う母の顔を見た途端、終わったんだという感覚で身体中の力が抜けた。


 それからずっと。風呂の中とか、一人きりの部屋とか、捻くれた形の月とか、誰かのお喋りだとか、何を見ても何をしてても思い出すのは、あの場所で仲間達と交わした無駄な会話と景色ばかりで。


 不思議だった。放送中に話した事なんて、ほとんど覚えていないと言うのに。


 そんな形を持たない思い出が言葉にならない感情と二人、いつまでもしみったれた瞼の裏で笑い転げているような。こんなどうしようもなくモヤモヤとする夜は、大好きなラジオが聞きたかった。


 もう二度と聞こえることの無い、あのラジオが。どうしても。


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