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13 おんえあっ!


「『みなさんこんばんはっ! こちら雑ヶ谷放送局――』」

「お、おかあさあぁぁ----んっ!!!!!」

「ええっ!? 初回の冒頭母を呼ぶって、そんなラジオある?」

「わっわっ!! 始まってるのか!? これ、もう放送されてる!? ちょ、待て! おわっ! 尾張ぃっ!」


 一気に熱が上がるのが分かる。緊張とは違う何かが頭の中心を焼くみたいに。


「終わらないから黙って! 今から大事なとこだから! はい、『僕は雑ヶ谷高校一年長江恭平です』!」

「ああああ個人情報っ! こいつ個人情報をネットで言ってるぞ! もう駄目だぁっ! 眼鏡の屁理屈パーカー達に家を取り囲まれるうううっ! おかあさああああんっ!!!!」


 相方の良く伸びる叫びに笑いながら。


「落ち着いて娘さん! お母さんは大丈夫だから! はい、深呼吸、深呼吸」

「はぁ~ふぅ~、は~ふ~っ、は~、うへへお嬢ちゃん、今日は何色のパンツを――」


「……えー、そんな雑高一年生の尾張ユリカさんです!」


「だから本名! バカバカ! 誰か聞いてたらどうするんだっ!」


「聞かせてんの! 全国の皆さんに雑ヶ谷を知ってもらうためにやってる番組だからね! 誰かに聞いて貰わなきゃ意味ないって!」


「お、お前なっ! そんな事言ってお前だって御園志桜梨が聞いてたらっ――!」


「本名っ! 友達の本名は晒すんだ!? でも大丈夫! 安心して尾張さん! こんなラジオ、君の友達はおろか世界のだ~れも聞いてないから!」


「いやいやいや! そうだろうけど! でも万が一あの尻軽女が聞いてたらっ!」


 笑う。尻軽って。


「君が一番聞いてないと思ってるじゃん!」


「バカバカ、もしかして聞いてるかもしれないだろっ! だって私とあのシリ・ガルコちゃんは親友なんだぞっ!?」


「タチ・ヒロシみたいに言われてもって、……え? 尾張さん、もしかして今日ラジオやるってそのお友達に言った?」


「言ってない。言う訳無いだろ、恥ずかしい。だが、大事なことは言わずとも伝わるのが本当の友達だろう?」


 相方の得意顔を見ながら、恭平は『自己紹介と番組紹介』と頭の中で呟いた。


「うわ~友情の押し売りだ、怖いわ~、そんな友人関係きっついわ~」


 ユリカは大いに頷いて。


「だな。大抵の人間は耐えきれずに辞めていった」

「あはは。苦行か。道理で」

「道理でって何だ! 言っとくけどな、お前に比べたら私の方が断然友達多いんだからな!」


 とりあえず、なるべく名前を呼ぼう。


「いやいや、少ないなんて一言も言ってませんよ。たださ、何て言うの、教室の尾張さんって」

「おう、なんだ?」


「ちょっと心配だな、と思ってさ。数少ない友人に必死で付いて行ってるって感じが見えるからさ」


「バカか。そういうのをやっかみって言うんだぞ! そう言うお前だって教室だと……――?」


「ん? 教室の長江恭平は?」


「……教室に……いる……?」


「いるわ! いるいる! 今んところ無遅刻無欠席で毎日いるっつうの!」


「ついでにノーフレンズで」


「そうそう。無遅刻無欠席ノーフレンズの皆勤賞で、ってうるさいわ! そんな話はどうでも良いんだよ! ただ! 本筋に戻る前にこれだけは言っておく!!」


「おう、なんだ!?」


「御園さんは尻軽じゃ無い!!」

「あはははは! 今!?」


「いやいや、触れずに行こうかと思ったんだけど、なんかだんだんカチンと来てさ」


「すまんすまん。嘘、嘘。あの子はぜんぜん、これっぽっちも尻軽じゃあないぞ」


「ああ良かった。ハイ、皆さん、こちら雑ヶ谷放送局では誤った情報はきちんと訂正していきますよ! 何と言っても公式――


「むしろ尻柔だからな、しーちゃんは」


――尾張さん詳しくっ!!」


「え? 私何も言ってないよん♪」


 きゅるんと可愛いポーズを取って見せたユリカに、恭平は笑って。


「あっれ? これはこれは手前のリビドーめが失礼しいたしました。まあ、言ってないんなら仕方ないけどさ……なーんかムカつくな、その顔」


「はっ、そんな事言って長江、目がハートになってるぞ? 男子は結局こういうのが好きなんだって。長江も本当は今、私の事かわいいと思ったんだろ? あん?」


 可愛いポーズで顎をしゃくってくる相方に頷きながら。


「そうだね。そう言う女の子が大っ好きなのに、こんなにムカつくってことは……多分、俺、尾張さんがムカつくんじゃないかな~」


「えっ? どうしてどうして? なんでなんで? 私、いつもこんな感じだよ?」


 小首を傾げ唇を窄め細い目を丸くしてまじまじと。


「そうそう普段は可愛い女子高生。でも夜はハガキ職人なの」


「……………ん……」


「え? あれあれ? もしかして尾張さん、ハガキ職人て知らないのかな? あ、そっか、かんざし一筋で三十年だもんね。あたいは他のこたあ出来ませんぜって?」


「…………………」


「……だーまーる! 黙るってあり!? 尾張さん、起きて! 起きて! 生放送ですよ!」


 パンパンと手を叩きながら言った恭平に、むぐっと唇を閉じていたユリカは。


「え~、次のコーナーは……」

「コーナー! コーナーあるの!? やったぜ! なんの、なんのコーナー?」


 右に左に揺れながらワクワクし始めた恭平の前、ユリカはぐばっと両手を掲げて。


「うるさああああいっ! お前ぇ~っ! 私にだって知られたくない事があるんだからなっ! それ言ったら私は黙秘権を行使するぞっ!」


 笑った。テンションが高いのが自分でもわかる位にケラケラと。


「ごめんごめん。学校以外でも内緒なんだって知らなかったからさ」


「だーかーら打ち合わせをしようって私は言ったの! それをよってたかって男共が――あ~わかった! じゃあ私も言っていいんだなっ! そっちがその気なら、私もこの良心の鎧を脱いじゃうからなっ!」


「え? 良心の鎧って、その羽衣みたいな奴?」


「そんな軽くないわボケっ! 行くぞ。こうやって十五年間まとい続けた良心の鎧を――」


「ふぁっさ~って」


「『ふぁっさー』じゃなーい! ドシャーンなのっ!」


「あはは。皆さーん、こうやって重力が見つかったんですよー」


「発見するなぁっ! ……ん? でもちょっと待て長江。今、鎧と羽衣が同時に落ちなかったか?」


「科学っ!? 今俺の目の前で科学が進歩しているっ!!」


「あはは。今日聞いてるリスナーは凄いな! 明日学校で話したら大変な事になるぞ」


「いやいやそれは無いよ。誰も理解しないって。だって重たいものと軽いものが同時に落ちるわけないじゃんか」


「馬鹿馬鹿違う! 真空なら同時に落ちるんだって!」


「『真空』! 『真空なら』! 詭弁だよそんなの! 机上の空論だって! だってこの世は真空じゃねえもん!」


「真空なのっ! 真空なんだってば!」


「教科書が嘘を吐いてるぞー! 嘘だらけの常識に反抗しようぜー!」


 拳を突き上げシュプレヒコールの恭平の前、尾張ユリカは思いっきり身体を膨らませ。


「こほーっ」

「あははははは!!! 吸ってる! まさか尾張さん、真空を作り出すつもりかっ!?」


「すうううううううっ!」

「ああっ、空気が薄くなってきた! あたたたた、頭痛い頭痛い……」


「ふはははは! どうだ、真空にしてやったぞ! じゃあここは今から真空なっ! いや~、ここが真空かぁ、涼しいな~」


「死んでる! 涼しいのは俺達が死んでるからっ!」


 だははと笑った恭平の横、ブースの中からパンパンッと手を叩く音がして。


『こらこらこらー。一回曲。曲行って、ヨイト』


 ディレクターの声につられる様に時計を見て、あ、と思った恭平と、


「んっ? んっ? なになに? どうした?」


 何が起きたのか分からずキョドったユリカの声に被さるように、劇場のスピーカーから盆踊りの様な曲が流れ始めた。




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