予定外
「真理愛さん、お風呂借りても良いですか?」
志狼はメイドの真理愛にそう訊いた。
「ええ、構いませんわ。こっちです」
真理愛はそう言うと、志狼を脱衣所へと案内した。
「今、タオル持って来ますね」
真理愛は志狼を残し、脱衣所から出ていった。
それにしても、この脱衣所は広い。何処かの温泉に来ているみたいだ。
志狼はそう思った。するとそこへ、真理愛がタオルとバスタオル、浴衣を持ってやってきた。
「浴衣とバスタオル、ここに置いておきますから、上がったら使って下さいね」
それじゃ──そう言い残し、浴衣とバスタオルを棚に置かれた黄色い籠に納め、タオルを志狼に渡して立ち去・・・ろうとしたが、何か思いだし、慌てて振り返った。しかし、志狼は既に浴場に入っていた。
「あ、どうしましょう。中には女の子が」
そう言った瞬間、中からハスキーボイスな悲鳴が聞こえてきた。真理愛は慌てて開け、中の様子を確認した。目の前で、黒羽の裸を見てしまって固まっている志狼。
真理愛は「あらまぁ」と頬を赤らめた。
「シロのエッチ!」
言って黒羽は志狼を突き飛ばそうとするが、しかし、足を滑らせて彼を押し倒してその上に。
カーッと赤くなる志狼と黒羽。
*
「眠れない」
眠いのに寝付けない私は起き上がった。床には秀次が鼾を掻いて眠っている。
可哀想な事したかしら?──そう思った私は、ベッドを降りて臭いを我慢し、彼をベッドに移して掛け布団を掛けてやると、部屋を静かに出た。
廊下は既に電気が消されており、ほぼ闇。私は懐中電灯を取り出して前方を照らして歩き出す。向かったのは、応接室。
ドアをそっと開けると、軋む音を発した。
中に入り、ドアを閉めて電気を点けて懐中電灯を仕舞う。
直後、閉めた筈のドアが開け放たれた。
誰?──と振り向くと、そこには黒猫さんが居た。
「誰かと思えばチビ探偵か。あんたも密室の謎を解きに北野 武?」
「その通りよ。て言うか、そのギャグつまらない」
「あ、そ。まあ良いわ」
私はそう言って、部屋を調べ始めた。すると、黒羽も調べ始める。
「それより黒ノ助、言っとくけどあんたの出る幕は無いわ。私が先に解くからね」
「私に推理勝負を挑むなんて良い度胸ね」
私たちは互いに向かい合い、バチバチと火花を散らす。
「それと、私の名前は黒羽よ」
「赤羽?」
「クロ!」
「態とよ。そのぐらい解ってるわ」
「・・・・・・」
無言で眉を顰める黒羽。
私はそんな彼女を放置して作業に戻る。しかし、めぼしい物は何一つ見付からない。やはり、警察が持ち出してしまったのだろうか。
「あ、解った」
黒羽が突然そう口にした。私は振り向き訊ねる。
「何が解ったの?」
「密室のトリック」
「ホントに?是非聴きたいわね」
「外から閉めたのよ」
「誰がどうやって?」
「榊原さんが合い鍵で」
「根拠は?」
「証言よ。あの人、自殺に見せたがってた」
「それ違うんじゃない?」
「否、絶対そう」
「じゃあ夜が明けたら、真理愛さんに訊いてみる?犯行時刻に何処に居たか。まあ、仮に犯人だったら嘘言うだろうけど」
その言葉に黒羽は「解った」と頷き、部屋を出ていった。
直後、私も電気を消して部屋を出て寝間へと戻り、ベッドに潜り込んだ。
*
お屋敷一階の使用人用寝室。そこでは、メイドの真理愛が何者かと話していた。
「貴方なんですよね?旦那様を殺害なさったのは」
何者かは、真理愛の言葉に眉間を顰めた。
「私、実は見てたんですよ。台所で貴方が旦那様のコーヒーに透明な液体をお入れになった所。あれ、青酸カリですよね?」
「・・・警察に言うつもりか?」
「勿論ですわ。犯罪に手を染めた者をこのまま野放しになんて出来ませんも」
「そうか・・・。なら生かしてはおけないな」
何者かはそう言うと、素早く動いて真理愛を押し倒し、そして首を絞める。
呼吸を止められ、息苦しそうに藻掻く真理愛。
やがて、真理愛は意識を失い、ピクリとも動かなくなった。
何者かは真理愛の脈拍を計り、脈が無い事を確認すると、「死んだか」と口にした。
(流石にこのままにしておくのは拙いか)
そう思った何者かは、辺りを見回し、棚の上に丁度良い長さのロープを見付けると、真理愛の体と一緒にそれを応接室に運び天井に吊した。
何者かはニヤリと北叟笑み、その場を離れた。
メイドの殺害は犯人とって予定外のもの。
これで、犯人を知る者は一人も居なくなった訳だが・・・。
て事で、次回に続くんだお。
──ネタバレ──
皆さん、お気づきだと思いますが、メイドさんの名前の由来は前回と同じく「ハ○テのごとく!」です。