大丈夫か、この刑事?
あれから、短時間で警察が到着し、現場検証が行われた。
「警視庁捜査一課の日奈菊 明日香よ。お話し伺わせて貰うわ」
そう言って、ピンク色の長い髪の女性が懐から警察手帳を出して第一発見者であるメイドに見せる。それには<警部補>と書かれている。
「先ずお名前を教えて下さるかしら?」
その問いに、メイドが口を開く。
「榊原 真理愛と申します」
「では榊原さん、ご遺体を発見された時の状況を詳しく説明して下さい」
「えーと・・・旦那様を発見した時、書斎には鍵が掛かっていました」
「鍵ですか。書斎にはどんな御用で?」
「食事の準備が出来たので旦那様をお呼びに。けど、お返事が無かったので、変だなと思って開けようとしたら、鍵が掛かっており、合い鍵で開けて中を確認しました」
「そして遺体を発見した、間違いありませんね?」
はい──と頷くメイドの真理愛。
「では、発見した時、変わった事とかありませんでしたか?」
「いえ、特に」
「そうですか。此処へ来る途中、怪しい人物とかは?」
「待って下さい。旦那様は自殺です」
「え、どう言う事?」
「だって、部屋は施錠されてましたし・・・」
「はあ?あのね、鍵が掛かってたからって、自殺とは限らないのよ。犯人が殺害した後、外から鍵を使って閉めたと考える事も出来るから」
日奈菊警部補がそう言うと、氷鉋 黒羽が否定する。
「それは無理ですよ、警部補。何故なら、被害者のズボンのポケットに書斎の鍵が入ってましたから」
と日奈菊警部補の下に氷鉋 黒羽が鍵を持って来る。
「誰よ、君?」
その問いに眉を顰める氷鉋 黒羽。
「氷鉋 黒羽、探偵です」
「え、君があの有名な?とてもそんな風には見えないわね」
日奈菊警部補は氷鉋 黒羽を蔑む様な目で言った。
私はそんな刑事さんに一言。
「子ども相手に大人気無いですよ、刑事さん」
そう言う私も、大人気無い。
「あんた誰?」
日奈菊警部補が振り向き、私にそう訊ねる。
その足元で、氷鉋 黒羽がズボンの裾を引っ張る。
「ウザイわね!何なのよ!?」
日奈菊警部補は氷鉋 黒羽を見下ろして怒鳴りつけた。
私はその警部補を細い目で見る。
「何よその目?」
それに気付いた日奈菊警部補は私に向き直った。
「何で怒ってんですか、刑事さん?」
「別に怒ってなんかないわよ!」
「いやいや、怒ってますよね絶対。てか、それ証拠品になるんで受理した方が・・・」
「解ってるわよ!」
日奈菊警部補はそう言うと、氷鉋 黒羽から鍵を奪い取った。
「で、あなた誰?」
「相楽 聡美です」
「被害者の知り合い?」
「いえ、知らない人です」
「何しに来たの?」
「友達の誕生パーティに招待されたから来たんですが?」
言って私は招待状を取り出して見せた。
「ふーん」
日奈菊警部補は素っ気無い態度で返すと、氷鉋 黒羽の方を見た。
「君は何しに来たの?」
「私はあの方に依頼されて」
と小春を指差す氷鉋 黒羽。
日奈菊警部補は小春を見ると、近付いて訊ねた。
「君、名前は?」
「西園寺 小春です」
「そう。依頼ってどう言う事?」
「えっと、それは父の事です。先日、何者かから手紙が届いたんです」
小春はそう言うと例の予告状を取り出した。
日奈菊警部補はそれを奪い取るようにして、封筒から一枚の紙を取り出した。
「何よこれ!?殺人予告じゃない!あなた、これ警察には相談したの!?」
「したわ。でも、真面目に取り合ってくれなかった。エイプリルフールの悪戯だって言われてね」
「あ、そ。まあ兎に角、この件は殺人事件として捜査をするわ。と言う訳で、事情聴取をしようと思うんだけど・・・」
「数千人を相手にですか。頑張って下さいね?」
私はそう茶化す様に言った。
「ちょっ、数千人!?」
「ええ、パーティ会場に」
そうよね?──と小春を見る私。
小春は無言で頷いて見せると、日奈菊警部補に「こちらです」と言ってパーティ会場へ案内した。
「ちょっ、ホントにこんなに居んの!?」
遠くから、日奈菊警部補の感嘆の声が聞こえた。
「どうでも良いけど眠い」
私はそう言って欠伸を掻きながら腕時計を確認した。現在、午後10時を回っている。
「あの、でしたらお部屋をご用意致しますわ。今日はもう遅いですし、お泊まりになられては如何かと」
真理愛はそう言った後、私の後ろに居た氷鉋 黒羽と男の子に「あなた方もどうです?」と付け加える。
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
と男の子が言う。
そう言えば、この子の名前訊いてないわね。
私は男の子の方を向いて訊ねた。
「ぼく、名前は?」
「立森 志狼です。シロって呼んで下さい」
「解ったわ、シロちゃん」
「シロちゃん?」と目を点にする立森 志狼ことシロちゃん。その傍らで、氷鉋 黒羽がプッと吹いた。
「ちょっと、クロ」
「ほう。黒猫さんはクロと呼ばれてんのか。じゃあクロちゃんだね」
「なっ!?」
傍らでシロちゃんを笑っていた氷鉋 黒羽ことクロちゃんが一瞬で固まった。すると、今後はシロちゃんがプッと吹き出す。
「可愛いニックネームだね」
「シロだって可愛いわよ!」
面白い奴らだ──そう思いながら私は二人を見てクスクス笑う。
「えっと、それじゃあ真理愛さん。お部屋、案内してくれますか?」
「畏まりました」
真理愛はそう言うと、私たちをそれぞれ寝室へと案内した。
二階の205号室。そこが、私の泊まる部屋である。
「って、一寸待った!まさかとは思わないけど、もしかしてこの屋敷ホテル兼ねてる!?」
「はい、兼ねてますわ」
真理愛はそう言うとニッコリと微笑んだ。
「マジ?道理で屋敷の入り口にフロントがある訳だわ」
「毎度有り難う御座います」
そちらの方も──とクロちゃんらの方を見る真理愛。
「取り消し利かないですか?」
「無理ですわ」
「・・・・・・」
私は無言を回答に肩を竦めた。
「そんなに気を落とさないで下さい。お安くしておきますから」
「お安くって、本来は幾らなの?」
「禁則事項ですわ」
「・・・・・・」
私は言葉を失い、そのまま部屋へと入り、ベッドに飛び込んだ。
同時に、携帯が呼び出しをする。
私は直ぐさま取り出して応答した。
「聡美か。何処に居るんだ?」
そう訊ねるのは秀次だ。
「あんたね、私の携帯に掛けて私以外の人が出るかしら?そんな事より、二階の五号室で待ってるわ。大至急来て」
「二階の五号室?何だか分からないけど、直ぐに行くよ」
秀次はそう言うと電話を切り、およそ五分後に私の下に現れた。
「言われた通り来たけど」
「有り難う。私、此処に泊まる事になったから」
「ふうん。それだけか?」
「うん、それだけ」
「あ、そ。じゃあな」
そう言って部屋を出て行こうとするアホ毛が飛び出た少年、秀次。
私は立ち上がり秀次の項を掴んで引き留めた。
「何だよ?」
「あんたも泊まって行くのよ?」
「嫌だ」
「私とじゃ不服?」
「そんな事は言ってない」
「じゃあ私と一緒に宿泊よ」
「嫌だ」
「しゅ・く・は・く!」
私は秀次の顔をこちらに向けて睨み付けた。すると秀次は涙を流して「喜んで!」と答えた。
「ちょっ、嬉しいからって泣く事無いでしょ?」
「別に嬉しいから泣いてるんじゃねえよ!お前と一緒に寝るのを避けられない事に悲しんでるんだ!」
ピキッ!
私は額に青筋を立てた。
「桐山くん、それどう言う意味かしら?」
引き攣り笑みで訊ねる私。
「え、何か言ったか俺?」
ガスン!
私は秀次の顔面を思いっ切り殴った。
「ちょっ、何で殴るんだよ!?」
私は秀次の胸倉を掴んで怒鳴りつけてやる。
「ムカついたからに決まってんでしょうが!!」
「えっと、どの辺がムカついたのかな?」
「もう良いわ!秀次のバカ!」
私はそう言うと秀次を突き放してベッドに横になった。
「わ、悪かったよ聡美。実は冗談なんだ。本当は、お前と一緒に寝れて嬉しい」
私は秀次を細い目でジーッと見て答える。
「ホントにそう思ってる?」
「ああ、思ってる思ってる」
そう言って添い寝しようとする秀次。私はそれを制止して股間を蹴り付けた。
「うっ!」
股間を押さえて蹲る。
「あんたは床よ」
「何でだよ!?俺だってベッドで寝てえっつーの!」
「・・・解ったわよ」
私は嫌々承諾をすると、半分程スペースを空けた。
「サンキュウ」
言って隣に横になる秀次。
「ちょっとあんた、汗臭いわよ。風呂入ったの?」
「入ってない」
「何日?」
「二日」
「不潔!」
ドン!
私は秀次をベッドから蹴り落とした。
デーンッと音を立てて床に叩き付けられる彼。
「やっぱあんた床で寝なさい。側に居られたら臭くて堪らないし腐るから」
「腐らねえよ!」
「そうね、腐らないわ。けど、臭いの嫌」
そう言って私は掛け布団を被って眠りに入ろうとするが・・・。
えっと、何かジャンルが推理からラブコメになって来てる気がするが気にしない。
──ネタバレ──
皆さん、もうご存知かも知れないが、日奈菊 明日香はハ○テのごとく!の生徒会長兼剣道部部長さんが元ネタです。
さて、次話は・・・いつになるか不明です。