2話 ゆきんこ
リレー2人目、ゆきんこです。
三人称視点で小説が書けない故、勝手に一人称視点にしちゃいました!
申し訳ありません。許してください。
なんでもはしません。なんでもするとも言ってません。
「ねえねえ!」
さっきまで座って本を読んでいた女の子が、急に話に入ってきた。
「あ、雪乃!どうしたの~?」
有城さんが笑顔で答える。仲が良いのだろうか。
「そのカラオケ、雪乃も行っていいかな?」
ー1時間後ー
「なんでこんなことに…」
僕はカラオケの一室にいた。
5人だからだろうか、結構な広さがある。
「まあそう言うなよ修斗。お前歌はどうなんだ?上手いのか?」
「いや、あまり歌うのは好きじゃないんだ」
歌はもう、嫌なんだ。
「そうなのか。まあそう言わず、思いっきり歌ってけよ!下手でも思い切って歌ったら楽しいぞ!」
「いやそういう問題じゃ…」
僕たちが端でこそこそ話してる間、女子たちが採点機能をONにし、曲を入れていく。「わたしこの曲!」「夕立さん紅井エイル好きなんだ?じゃあ雪乃RiSAの曲!」「二人ともSword Art Offlineが好きなの?じゃあ私もそれにしよっと!」
いったい何語だろうか、理解できない…
「それに見ろよ、有城さんの元中?友達の雪乃さん。かわいいよなあ」
橋豈 雪乃さん。艶やかな黒髪のショートカットに、可愛らしい水色の髪飾りをしている。高めの声は澄んでいて聞きやすく、少し幼いながらも整った綺麗な顔立ちだ。有城さんの幼稚園からの幼馴染らしく、あまりの仲良し故に同じ高校を選択したんだとか。確かに素敵だ。
「ねえ、二人とも歌いなよ!あ、ただしアニソンかゲームの曲縛りだよ?」
こちらの視線に気付いたのか、雪乃さんが話しかけてきた。幼気な笑顔に胸が高鳴る。
「もちろんだ。俺たちの上手さに惚れるなよ?なあ、修斗!」
剛昌が陽気に話を振ってくる。
「だから僕は歌わ」
「大丈夫だよ修斗くん!心配しないで?」
雪乃さんが隣に座り、真っ直ぐな瞳でこちらを見つめてくる。
そして言い放つ。
「わたし、女の子にしか興味ないから!!」
ーー場が、凍りつく。
ああ、なんということだろう。
ひょっとして、まともな人なんて一人もいないのではないだろうか…
剛昌もさすがに笑顔が凍りついている。
「ちょ、ちょっと雪乃!あんた何言ってんのよ!」
有城さんが慌てて歌っていた曲を止め、大声で突っ込む。
「碧ちゃん、大丈夫だよ~。雪乃はずっと碧ちゃんのものだよ~。」
話についていけない。そういう関係なんだろうか。
「そんなこと望んでない!みんな、違うからっ!」
違うらしい。
「え、えっと、有城さんは…ゆ、百合…なのかしら?」
ずっと硬直していた夕立がようやく口を開く。同じく話についていけないようだ。
それに対し、雪乃さんは満面の笑顔で、
「ふふっ、冗談だよっ」
「「「「冗談かいっ!!!!」」」」
もう嫌だ…帰りたい…
「あ、雪乃の番だー!久しぶりに歌うぞー!」
雪乃さんは喜々としてマイクを握った。
「…凄い」
雪乃さんの歌の上手さに、つい呟いてしまった。
わいわい騒いでいたほかの人たちも、すっかり聞き入っている。
はっきりとした高音域から深みがかった低音域。安定したロングトーン、丁寧な息遣い、綺麗なビブラート。全てが耳に心地よく、胸に響いた。
《こんな素敵な歌を、歌いたい。》
僕は思わず頭をよぎった考えに、はっとした。これは中学時代の思い出と全く同じ気持ちだった。こんな素敵な歌を自分の声で奏でたい。響かせたい。伝えたい。当時はその一心で必死に練習し、メンバーを集め、学祭で演奏しようとした。
しかし、それは叶わなかった。学祭前日、ある事件でバンドメンバーが決裂し、演奏は中止となったのだ。
それ以降思ったように心から歌えなくなり、歌は僕にとって重い傷となった。
ーーー雪乃さんの歌声が、ただただ深く心に響いた。
それからは、雪乃さんの冗談のおかげ(?)で皆の距離が縮んだのか、いろいろな話で盛り上がっていた。
中学時代の思い出だとか、好きなアニメだとか、好きなゲームだとか、声優、歌手、アニメーション制作会社等…(もちろん僕はただ聞いていることしかできなかったが。)
僕以外の4人が回し回しアニソン等を歌い、既に外は暗くなっていた。
お陰様でいくつかアニソンを覚えてしまい、果てにはちょっと好きな曲まで出来てしまった。どうしたものか。
「でさー、修斗。もう時間だし、最後に一曲歌ってくれよ!」
剛昌が笑顔で言う。
「あ、聞きたい聞きたい!」
「一曲ぐらい歌っちゃえばいいじゃん?」
「雪乃も聞きたいなあ。ほら、私も赤裸々なカミングアウトをさせられたわけだし!」
勝手に自分からしたのだ。というか冗談じゃなかったのか。
「あー、もうわかったよ!!」
「「「「おぉ~!!!」」」」
ひとつだけ、知っているアニソンがある。
中学の学祭で歌う予定だった曲。いつでも元気をくれるただ一つの曲。僕はバンドの解散後も、今日までずっと聴き続けてきた。
さっき雪乃さんに心を動かされていなければ、歌うことはなかっただろう。歌えなかったら止めればいい。下手だったら笑ってもらえばいい。そう自分に言い聞かせ、予約を入れる。
必死に歌った。全ての傷みを受け止め、自分の想いが、自分の歌が負けないように心を込めて歌った。
たかがカラオケで、聞いているのはたった数人だけ。なのに、大きな壁を乗り越えたかのような、とてつもない達成感があった。
剛昌がこちらを睨む。
「え?どうしたんだ…?」
声が大きすぎただろうか。音痴だっただろうか。
修斗が不安になっていると、剛昌の顔は満面の笑みに変わり、
「めちゃくちゃ上手いじゃねえか!!」
「ダンゴムシくんやるじゃん!凄いね!?」
「わ、わたし感動しちゃった!」
みんなが僕の歌を褒めてくれる。とっても嬉しい。でもダンゴムシじゃないです。
「ね、雪乃の言うとおり心配なんかいらないでしょ?楽しいでしょ!」
雪乃さんがしてやったりな顔で話す。
「ねえ雪乃さん、ひょっとして何か」
「さあ~!もうこんな時間だ!雪乃、ママに怒られちゃうよ~!早く帰ろ!ねっ!」
気づいていたの、と聞こうとしたが阻まれてしまった。
「うん、そうだね」
やはり何かに気づいていたのだろう。あえて聞くことはせず、それだけ答えた。
真っ暗な帰り道を歩きながら家に着くまで、僕は今日の事をずっと考えていた。
橋豈 雪乃さん。
不思議な人だったなあ…。
ちょっと話の本質から逸れて、主人公の設定と友達との関係を深める寄り道回でした。
文章が読みにくかったらごめんなさい。でもなんでもはしません。