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生きてどうすんだよと彼は思った


「まあ、そうは言っても10億全部が御影君の懐に入るわけではないからね」

「おお、その方が助かる」


まあ、中間手数料とか色々あるんだろう。

ジャイニーブさんたちが「お前らどんだけみみっちいの……?」って顔でこっちを見てるけど無視だ無視。

金銭感覚違いすぎて付き合ってられねえ。

10億なんてもらえるか!


「豊葦原世界は世界内世界で他の世界とのパワーバランスがあるからね。ある程度は根回しとかに使わざるをえないと思うよ」

「おお、よくわからんが根回しは必須だよな……」

「いやあ、豊葦原側もまさか御影君が邪神を倒すとは思ってなかったからねえ……。てんやわんやだよ」


おかげで交渉が全然進まないとリューイちょっとげんなりである。


「……まあ、俺はワンルームのアパートとちょっとした仕事があればいいよ」

「OK、伝えとく」

「あ、アパートは賃貸で、仕事はバイトでいいです」

「………………御影君、君無欲で死のうとしてない? カルルット君とかもうドン引き通り越して宇宙的恐怖を見る目で君を見てるよ?」


いや、そんなこと言われたってなあ……。

1DKとか契約社員とかちょっと分不相応な気が済んだよなあ……。

正直、それで生きられなくなったら死ねばよくない?

生きてどうすんだよ。生きて。


根っからの小市民門上御影。

最早、持ち家やら正社員やらは都市伝説だった。


 * * *


「……なにあれ」

「まーね。ジャイニーブ君からすればそうだろうね」

「気持ちわりいってレベルじゃねえぞ……」



銀色の構造物――通称医療室からの帰り道。

リューイとジャイニーブは並んで歩く。

カルルットは仕事があるとのことだった。


「御影君はさ」


リューイは静かに言う。

その目は前を見つめたままだ。


「何も払ってないからね」

「……!」


それこそジャイニーブにはない発想。

総力を挙げて邪神討伐に成功したガラン世界からは出てくるはずのない答え。


「それは無論何も持ってないから何も払うことができないということでもあるんだけど――なんにせよ彼がこの戦いで失ったものはあきれるほど少ない」


そりゃあ無欲にもなるだろうとリューイは淡々という。


「友を家族を住処を故郷を平穏を日常を失ってそれでもあんな無欲なことをいう子じゃないだろうけど、そのどれでもないからね」


むしろそれこそが邪神を滅ぼす原動力だったのだろうというリューイにジャイニーブは首をかしげる。


「どういうことだ……?」

「邪神の側だってあそこまで何の覚悟がない子が来るとか思わないじゃん」

「それが強さなのか……?」

「いや、弱さだろうね。邪神すら想定外の弱さ。邪神との戦いに何もかけることができない弱さ」


ジャイニーブ君や他のにはないものだよねえ……。しみじみとつぶやくリューイの心のうちがジャイニーブにはわからない。

ガラン世界では弱さこそ罪で弱いからこそみたいな発想はかけらもない。生まれるためにはあと30年は必要だろう。


「まーいかに豊葦原世界といえどもあと数日もすれば落ち着くでしょ。そっから本格的に交渉かな」

「ふうん……」

「ジャイニーブ君も今のうちに御影君に頼み込んでおけば分け前にありつけるかもよ?」

「ふうん!?」

「結構、御影君君に恩義感じてるからね。くれるんじゃない?」

「……あいつ、ハゲタカどもにむしり取られるんじゃねえのか」

「けど、それでも怒らないんだろうなあ……」


あれ、結構ヤバいんじゃね?

そんな空気が二人の間に流れたとか。流れなかったとか。

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