それだけだと彼は思った
……ま、とりあえずハーブティーじゃん?」
「お、サンキュ」
そういって、ぐしゃりと椅子に腰かけてハーブティーを啜るレーバイエさん。
心なしか顔色が悪い。
「……いや、体が生きようとしてるわりにお前らボロボロじゃん?」
「そんなもんなんだよ。お前と一緒にするな」
同意である。
刃物すら通さない加護もちのカルルットさんには多分わからない世界だ。
正直、細い細い蜘蛛の糸のようなものだ。
すがったところですぐに切れる糸。
でも。
そんなものすらゴンにはなかった。
邪神の分体たるゴンには体がない。
そんな存在が、「体が生きようとしている」だけで生き続けてきた御影の絶望に耐えられるわけがないのだ。
心が頭が精神が魂が――死のうとする。
だけど。
肉が骨が皮が血が髪が――生きようとする。
それだけで生きてきた。
ならばそれは――肉体なき邪神には致命の毒だ。
もうなんか、笑ってしまう。
体があること。
死にたいと思いながら生きてきたこと。
応えてくれない神を信じてきたこと。
弱く弱く弱いこと。
まさに門上御影そのもの。
どこにでもいるモブそのもの。
そんなものが――邪神を砕いた。
もう、弱さとはなにか、強さとはなにかって感じだ。
結局、世界を壊せるほどの強さがあっても――死ぬことすらできない弱さに耐えられるわけではなかった。
強いものほど――弱いものに弱さに耐えられない。
だったらもう――それは優劣じゃないだろう。
ただ、違う。それだけだ。
「つーか、ハーブティー飲んだら出ていくじゃん?」
「あー……。じゃあ、最後に一個だけ質問」
すっと、雰囲気が変わる。
いや、戻る。
そういうべきなのだろう。
これはきっと、「そういうもの」として生きるという彼の決意そのものなのだから。
「吾輩の新作――御影殿をモデルにしてもよろしいですかな?」
瞬きは一回。
「――ありがとう」
それは多分レーバイエ・ガータとしての最期の言葉。
悠然と立ち上がったその姿はもう著述魔術師ルーイック・トゥータだった。
「それでは道化はここで去るとしましょう。御影殿の寛容にあらん限りの感謝を込めて――幸いあれ」
その祝福は心からの祈り。
もしかしたら御影だったかもしれない作家は仰々しく礼をして立ち去った。
「……」
しんと落ちた静寂に御影の意識が落ちていく。
最後に思ったのは――
この期に及んでもまた家どうしようかということだった。




