やることがないと彼は思った
契約の方法はシンプルだった。
リューイが虚空から取り出した冊子にサインするだけである。
結局のところ大切なのは「リューイと契約した」という事実だけであり、形式はどうでもいいということかと思ったが違うらしい。
冊子本。
生前のリューイが成し遂げた偉業の一つであり、現在においては契約神としての神性の象徴。
これを引っ張り出してきたというあたりリューイの本気がうかがえる。
「敵が敵だけに本気で行こう。ちょーっと強めに縛るぜ」
不敵に笑うリューイには勝利への確信があった。
* * *
とはいえ御影のやることは一つだった。
例の集会場のど真ん中にしつらえた椅子に座っているだけである。
いや、立っててもいいんだが足疲れるし、別に御影ごときが立ってようが座ってようが寝てようが関係ないらしい。
要は囮である。
笑っちゃうようなことだがこの状況の要は門上御影だ。
御影から邪神に撃ち込まれた「弱体の呪い(仮)」とて御影がいなければ効果は大きく減じる。
リューイ曰く、今の邪神は身の内から崩壊し続けているようなものらしいが――それも御影がいなくなればどうなるかわからないのだと。
まったくもって現実感がない。
いてもいなくてもいい皿洗い。
それが門上御影だったはずだ。
それがいったいどうしたことだろうか?
さらにもう笑うしかないのが、ここまできて門上御影は何も変わっちゃいないということだ。
死ぬほど弱い、最弱の皿洗い。そのまんま。
チートじみた能力に目覚めたわけでも、恐るべき技術を習得したわけでも何でもなく。
どこにでもいるモブそのままである。
出来ることといえばここで椅子に座っていることだけである。
「……」
足を組んだ。
いや、なんかあんまりにもできる事少なすぎて思わず。
「……」
腕を組んだ。
いや、特に意味はないがついでに。
ぶっちゃけて言えば、暇だ。
やることがない。
周囲の警戒にしても、やろうがやるまいが結果が変わらないのを御影は知っている。
御影の洞察力などそんなもんだ。
何もできない。
何もできない。
何もできない。
驚くほどに――何もできない。
だから。
それが目の前に現れた時、最後に気づいたのはきっと御影だったのだろう。
「よう」
彼我の距離10㎝。
手に光るはあの時の――御影の手を切ったナイフ。
ゴンだった。




