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わからないと彼は思った

「そう、知らなかった。というか知りようもなかったのかもね。――こんなに弱い人間がいるなんて」


御影の困惑をよそにリューイは続ける。


「邪神と対峙するものなんて基本勇者だ。弱い人間なんて視野に入ってすらいなかったんだろう」


朗々と語るさまは神というより語り部を思わせた。


「分体の性能が高かったのもよくなかったのかもしれない。まさかここまでコピー出来るとは想定外だったんだね」


あるいは生前の彼はこういう男だったのかもしれなかった。

武勇よりも言の葉によって戦うもの。


「何より――自分がその『弱さ』を取り込んだらどうなるかなんて考えたこともなかったんだろう」

「……!」


息をのむ音がした。

何重にも重なりあう音の響き。

呼吸する生物全てが息をのんだ気さえした。


「『生きているより死んだ方が幸せだ』。そんな思考を欠片でも取り込んで無事で済む霊的存在など存在しない」


それでも、御影にはよくわからなかった。

だって――邪神って強いんだろう?


「『存在したい』『存在してほしい』その思いだけで存在しているのが僕たち()だ。それを揺るがす思想など一級の呪毒に等しい」


世界を壊すほど強いのに――たかだかそれぐらいで?


「分体だってたった3か月であれだけ壊れた。ましてや何の対策も講じなかった本体など――もう瀕死だ」


そんな簡単に――壊れてしまう?

あっけないほど――簡単に?


「……整理させていただいても?」


そういったのはルーイックさんだった。

かつてレーバイエ・ガーターだった男。

最も門上御影に近い勇者。


「構わないよ」

「分体は御影殿の弱さをコピーした訳ですな? そして本体はその弱さごと分体を取り込んだ」

「そうだね」

「本体はそんな弱さすぐに中和できると思ったが、一級の呪毒と化した弱さに一瞬でやられた。そういう訳ですな?」

「そこまで弱いと思わなかったんだろうね。あるいは――そこまで弱くて生きていけると思わなかったんだろうね」

「……なるほど」


ルーイックさんは嘆息した。


「弱くとも生きていけるというのは――生あるものの特権ですからなあ」

「そういうことだね」


リューイはそういって虚空から本を取り出す。

魔導書のように厳重に封印された、聖書のような重厚な本。


「さて、とりあえずの解説はこれでいいかな? では――反撃といこう」


御影には――わからない。

わからないままに邪神討伐は始まろうとしていた。

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