俺は何にもしてねーよと彼は思った
「さて、お集りいただきありがとう」
リューイ・ディ・エンクは眼前の勇者たちを見渡した。
エルードに集った全勇者である。
最早ここに至れば――全戦力を結集しても問題ないとの判断だ。
「我々はこれから総攻撃を仕掛ける」
一瞬だけざわめいて――すぐに静かになる。
彼らとて、歴戦だ。状況がわからないままで騒ぎ続けたりはしない。
「昼前とは状況が違う。『欠片』が手に入った今なら勝てると判断した」
それほどまでに状況が動いた。
いやはやダークホースとはこの男のためにある言葉だ。
つっと動いたリューイの視線を追って全勇者がその男を見た。
門上御影。
最弱の皿洗いは無言無表情でたたずんでいた。
* * *
ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!
もうなに? なんなの? 何が起こったの?
俺は何にもしてねーよおおおおおおおおおお!!!!!
御影の内心を言葉にすればそんな感じであった。
マジで。何も。知らない。
それが、門上御影のすべてである。
とにかく、崩れ落ちないよう泣きださないようにするだけで精いっぱい。
頭の中は!と?でいっぱいである。
「……状況を説明してもらえるか?」
「例の邪神の分体が何かした。その認識で構わないか?」
ジャイニーブさんがリューイに視線を戻し、イヨルさんが口を開いた。
「流石、デフォル人。その通りだね。例の分体が大きくかかわっている」
うん、そうだね。少し説明しようか。リューイはちらりと御影を見て、勇者たちに視線を戻す。
「かの分体が極めて独立性の高い、ほぼ完全に独立した個体だということは知っているね? 欠片を分析してわかったことだがあの分体はどうやら独自の策を立てていたらしいんだ」
「独自の策……?」
「ああ、『門上御影離反計画』だ」
また、ざっと視線が御影に集中する。
しかも今度は若干の敵意をもって。
御影の背筋を冷や汗が伝う。
「ちょーっとおかしいかなとは思っていたんだよね。いくら何でも弱体化が早すぎないか?とはね」
とはいえ、豊葦原人の本気だからねえ。こんなもんかなとは思っていたんだけど。
うーんと腕を組むリューイ。いや、そう思ったのならせめて一言欲しかった御影である。
「だけど、それが策だったわけだ。あの分体は自ら弱体化していた」
「それと御影殿の離反にどういう関わりが?」
そう言ったのはガンソンさんで今もなお御影に同情の目を向ける良い人である。
「ここが説明が難しいところなんだけどね……。御影君と『仲良く』なるためには何が必要かって話なんだよ」
「あーなるほど」
納得した声を上げたのはジャイニーブさん。そう、ここまでくれば御影にもわかる。
「『弱さ』、か」
「そうだね。無論、力で無理やり裏切らせることもできるけどそれだと御影君すぐ裏切り返しちゃうからね。積極的には裏切らないだろうレベルにするには心を縛る必要がある」
「そして、御影は自分より強いやつにはそこまで信を置かないからな。それがあの急激な弱体化の原因か」
視線が今度は感嘆に動く。
それはそれで冷や汗が流れる御影である。
「で、ここが問題なんだけど御影君はものすごく弱いじゃない? ダントツで弱いじゃない?」
「「「「弱い」」」」
なんかめっちゃ声そろった。
声ださなかったやつもものすごくうなずいている。
「御影君に信頼されるレベルで弱くなるって難しんだよね。やりすぎると消滅しちゃうからね。そしてその差がものすごく少ない」
「うん? それはつまり、こういうことですかな?」
声を上げたのはルーイック・トゥータ。かつて弱者だった男。
「あの分体は――門上御影をコピーしたということ、ですかな?」
「コピーなのか模倣なのか微妙なところだけどね。でもまあ確かにそうなんだよ。霊的存在が門上御影レベルで弱くなろうとすれば――門上御影を模倣するしかない」
くくっと御影は思わず笑ってしまった。
そこまでされて俺は――対等な感じがしないとか言っていたのか。
ドッペルゲンガーに対してお前の方が強いとか、鏡に向かってお前の方がイケメンだとか言っていたのか。
どこまで――卑屈なんだ。
最弱の皿洗いは――笑うことしかできずに佇んでいた。




