うわ、でっけえと彼は思った
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「術式介入!!」
ジャイニーブさんの詠唱の声が聞こえる。
それを支えるイヨルさんの声も。
「御影!! 逃げろ!!」
カルルットさんが語尾をつけずに叫んで。
ウェイバー式不定流体がゴンを貫いた物体を切り裂いた。
ゴンは。
ゴンは。
人形のように崩れ落ちていた。
死人の――ようだった。
生きてさえいなかったけど――死体のようだった。
御影は空の物体を見上げた。
ここまで来てしまえば――御影にも分かる。
これが。これこそが。
――邪神本体。
* * *
終焉世界エルード、主神代行リューイ・ディ・エンク。
これがエルード側の最高戦力である。
その権能は契約。
「邪神を倒す」と契約さえさせてしまえば問答無用で邪神を倒させてしまう主神代行の名にふさわしい能力である。
ましてや、ここがエルードあるならば。主神代行たるリューイの力を退けられるものなどいやしない。
それが、今まで効力を発せなかったのは「邪神とは何か」がわからなかったが故。
公平に公正に緻密に契約を締結してこそ威力を発揮するかの神の権能において「邪神が何かがわからない」というのは致命的であった。
ゆえに。
エルードに集まった勇者にとって邪神と戦うとは。
滅ぼすよりも追い返すよりも――切り落とすことが優先される。
ひとかけらでもリューイの元に持ち帰ることができれば――それでもう勝ったも同然なのだ。
それがリスクを冒してでもゴンを生かした理由。
ゴンを解析して得られた情報は確かにエルード側の力になっている。
ただ、問題は。
そんなこと邪神側だってわかっているということだ。
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「術式介入!!」
空間ごと物体を切断するジャイニーブの魔術が発動する。
イヨルの術式介入がそれを強化する。
だがそれでも。
切り裂かれたはずの邪神本体は即座に融合する。
ひとかけらだって渡さないといわんばかりに。
「御影! 逃げろ!!」
ウェイバー型不定流体を操りながら再度そう叫んでしまうカルルット。
ここに至れば、もう御影が生きていようが死んでいようがどうでもいいのに。
加護厚い勇者が故かこの男はとことん甘い。
そして御影は――ただ茫然と上を見上げていた。
* * *
うわ、でっけえ……。
これが門上御影の頭を占める全てであった。
ゴンを殺されたら自分はどうなるのか。
かつて御影が「ま、いっか」で流した問の答えは「うわ、でっけえ」であった。
まあ、今まで見た生き物の中で最大のものがジンベイザメである門上御影。
クジラ大のサイズ感は未知であった。
その衝撃は結構長きにわたって門上御影の脳裏から逃げるという選択肢を吹き飛ばした。
まあ、正直。
このサイズ差では御影が必死になって逃げたところでどうにもならないのは――誰の目にも明らかであったが。
ぐにゃりと邪神本体が動く。
流石に御影も血の気が引くが、竦んだ足は凍り付いたように動かない。
だが、どすっと槍が貫いたのは御影ではなくゴンだった。
『デキソコナイガ!!』
ドスッ!
『カッテナコトバカリ!!』
ドスッ! ドスッ!!
――無残に破壊されていくゴンを見て駆け寄ったりできればかっこよかったのだろうけど。
竦んだ足ではもつれさせてずっこけるのが関の山であった。
砕かれたゴンは硬質な金属片のようだった。
それが掃除機のように邪神本体に吸い込まれていくのを見て何か言えればまだ人間らしかったのだろうけど。
とにかく立ち上がるのに精いっぱいの御影はぶっちゃけよく見てなかった。
だから。
必然の結果として。
立ち上がりかけた御影と吸い込み終わった邪神の一部がぶつかった。
邪神としてはぶつける気など欠片もなかったのだろうが、ぶつけないように配慮する必要も感じなかったのだろう。
御影としてはただいっぱいいっぱいだっただけである。
どちらもぶつかりたかったわけではない。
どちらもぶつけたかったわけではない。
しかし、結果として両者は接触し――爆音が響いた。
轟音とでもいうべき――爆発音が響いた。




