痛いのはやだと彼は思った
御影とゴン。
彼我の距離5メートル。
同じナイフを手にし向かい合う。
なんかもう疲れたとか、先行きの見えない将来への不安とか、まあ色々あったのだが。
結局のところ。
門上御影は――ここまで近くなった相手に心中を持ち掛けられて断れる人間ではなかったというただそれだけの話。
友達いない歴=年齢の極致である。
だからまあ、考えることは一つである。
…………ナイフで死ぬってどうしたら良いの?
陰キャオブ陰キャの門上御影。
人体を棄損する目的でナイフを持ったことなど生まれて初めてである。
ゆえに死に方がわからない。皆目見当もつかない。
心臓とか刺せばいいんじゃとは思っても心臓の位置がわからない。肋骨の避け方がわからない。
首?動脈?どこ? where?
もっと言えば、死にたくないわけでないが――痛いのはやだった。
より正確に言うならあまりの痛さに「死にたくなくなっちゃった」らどうしようという感じである。
そういうわけで、門上御影。
ナイフを持ったまま半笑いで凍り付いた。
が、まあなんというかかんというか。
見ればゴンもナイフを持ったまま半笑いで凍り付いていた。
まあ、そりゃそうだろう。
いやしくも邪神の分体がナイフ一本で自壊できる方法など知ってるわけがないのである。
バレたらどうすんだって話だ。
「……どうするお互い殺しあうか?」
「冗談。俺即死っしょ」
そういって笑って。
ナイフをしまって。
また歩き出す。
――はずだった。
「――あ」
その声が聞こえたのは多分奇跡だった。
金属のような生物のような不思議な質感。
空に浮かぶクジラほどの質量。
それから伸びた「槍」がゴンの胸部を――貫いていた。
ゴンの生態なぞかけらも知らないけれども――確信した。
ゴンはもう助からない。
見上げれば――巨大な物体。
『デキソコナイガ……』
そんな声が響いた気がした。




