薫製は苦手と彼は思った
さて、門上御影という者は薫製が苦手である。
なんか煙っぽくて好きではないのだ。
あれがおいしいという感覚がどうもよくわからない。
まあ、根っからの小市民である門上御影。
ガラン世界の人類最強様に対してそんなことなど口が裂けても言えないのだった。
「……あの分体、もうお前が殺してやらねえか?」
「それは……どうして?」
黙々と薫製の準備をしていたジャイニーブさんが言う。
穴の中で火をおこし、チップをセットする手際は手慣れたものだ。
多分ガラン世界では一般的な調理法なんだろう。
「いや……お前もなんか手柄がほしいだろうと思ったんだが」
多分あれはもう――お前でも殺せる。
肉に串を刺しながらジャイニーブさんは淡々と言う。
その視線がゴンに向かって動いた。
つられて御影もゴンを見た。
「……」
ゴンは無言だった。無表情だった。
真顔のまま五メートル先に立っていた。
もうすぐ消える分体。御影に殺されうるまでに弱体化した邪神。
「……んー、それは良いかなって感じです」
視線をジャイニーブさんに戻して御影は言う。
それは決めていた事だった。
「かつてならともかく今の豊葦原にそう言うことを評価するシステムはないですし、それに――」
「それに?」
「もう殺せそうだからって油断して殺しにいって返り討ちにされないと思うほど俺は自分の戦闘能力を信じてませんよ」
「………!!!! くははははははははっ!!!」
一瞬呆気にとられた後、ジャイニーブさんは声を上げて笑った。
……そんなに笑う事でもないだろうと思うのだが。
「いや、すまん。見くびっていた」
「……?」
くつくつと笑いをかみ殺しながら、串に刺した肉をセットする。
「それが分かるだけお前は強いよ。自信持て」
「いや、それぐらい分かりますって」
門上御影。しがない皿洗いである。
戦闘能力なぞ、0通り越してマイナスであろう。
そんな者がいくら弱ったからって邪神の分体に突撃しちゃダメなのだ。
それに――。
「……推測っていうか確信なんですけど」
「確信かよ」
「多分、あいつまだあきらめてませんよ。なにか狙ってます」
そういう御影の視線の先にはゴン。
邪神の分体は無表情のまま佇んでいた。




