神か仏かと彼は思った
最早、ゴンは動こうとはしなかった。
いや――そもそも。
ガラン世界の人類最強、ジャイニーブ・アルデニガ・アルデニギ。
それが相手なら――不意打ち以外の勝ちがない。
そして動かなかったのはジャイニーブもまた同じ。
邪神と見れば容赦はしないガラン人が見逃す理由もまた。
もう、消滅が不可避だからに他ならない。
「……なるほどな」
また、ジャイニーブは言った。
噛みしめるように――深く深く頷いた。
「『弱い』ことに意味はないが――『向こう三軒両隣軒並み弱い』ことには意味があるわけか」
「……まあ、あるでしょうね」
一説によれば。
豊葦原で同質性が重んじられるようになったのは自然災害のせいだという。
個人の力ではもうどうしようもない天変地異。
そういったものからより適切に避難するために。
そういったものからより迅速に復興するたあに。
なによりも「一つにまとまる力」を重んじた。
豊葦原に神を超えたる力をもつ英雄などいない。
その状況を――それでもどうにかする技術。
それこそが「均質なる群」そのものである。
「なるほどなあ……うん。なるほどだ」
「ガラン世界は強者絶対でしたか」
「ああ、それ故に興味深い」
ガラン世界は神と人の近しい世界だ。
それは能力においても同じ事。
人類最強にすぎないジャイニーブは容易く半神を殴り倒す。
それ故に、重んじられるのは個としての強さだ。
豊葦原とは真逆の方向性。
「俺は猿に育てられた狼でな。正直異端の育ちなんだが、それ故の強さという物があると思っている」
「ある、でしょうね」
「空間魔法は猿の魔力量では発現できない。しかし、俺が猿から得た座標空間の概念は空間魔法に大きな革新をもたらした」
「イノベーション、技術革新と言うやつですか」
それが、多様性の最も大きな恩恵と言ってもいいだろう。
異なる物が出会うことによって新しく生まれる何か。
そう遠くない将来、ガラン世界の狼達は空間魔術の使い手として名を馳せるようになるのだろう。
「しかし、まあ、それとて失う物がないわけではないでしょう」
「全くだ。邪神降臨の際は連携の不備で何万人死んだか分からん」
「まあ、そうでしょうね……」
まさに多様性の裏側がそれ。
多様性とは結局のところ「いろんなやつがいっぱいいればなんかあっても一人ぐらい生き残るだろう」という考えなわけで。
「より生き残りやすい形に成形しておいて有事の際の生存者を最大化しよう」という同質性の思想と比べると生存者数に大きく引き離されるリスクがある。
「ただ、まあ、その程度っていやあその程度なんですよねえ……」
「……確かになあ」
「何やったって死ぬときは死ぬからなあ……」
「邪神が言うんじゃねえよ」
まあ、確かに。
結局のところ、死ぬときは死ぬ。
あっけなく、あっさりと。
同質性によろうが多様性によろうが。
そんなことに関係ない死という物が存在する。
それは命という物が死によって完成する何かである以上避けようもないのだ。
「……腹が減ったな」
「まだ早くないすか?」
「俺が何のために来たと思ってるんだ? リューイからの差し入れ持ってきたんだよ。あっためてから食えって話だから火起こすぞ」
「おお、リューイありがとう!!」
神か仏かと思ったがフツーにあいつ神だったわ。
とりあえず手を合わせて一礼。
「じゃ、お前は枯れ枝集めてこい。俺は穴ほっとくから」
「穴?」
「薫製にしろってさ」
そう言って見せたのはなにがしかの小動物の肉と燻し用のチップ。
それをしまって、黙々と穴を掘り始めたジャイニーブさんに「いや、俺薫製苦手なんですけど……」とは言えない御影は粛々と枯れ枝を集めに行くのだった。




