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偉大なるものもふしっぽと彼は思った

つまりは。

邪神というのは生物を取り込んで眷属を作るモノらしい。

グールとかたぶんそんな感じ、とリューイは言った。


で、この目の前に置かれた大きめのビー玉サイズの球体はそれに抵抗する力を計るモノらしい。

透明な玉が黒くなれば抵抗力があり白くなれば抵抗力がない。

それをグレースケールで示すのだそうだ。


そして。

俺を計ったというその玉。

大層見事な漆黒に染まっていた。


「…………は! まさか俺の右手には触れるだけであらゆる異能をキャンセルする力が!」

「ないな」


イヨルさんばっさりである。

まあ、俺もあるとは思ってない。

俺の右手にできることなんぞジャイニーブさんのしっぽをもふることぐらいである。

大変にもふもふであった。満足である。


「そこまで能動的なものではない。あくまでも受動的にしか働かない。オンオフもできない。異能や能力と言うより純粋に魔法防御力が高いのだろうな」

「はあ、そうですか」

「なにせ俺の情操術に抵抗したぐらいだからな」

「「はあ!?」」


リューイとジャイニーブさんの二重奏。

……しかしなんだろうな。このリューイに対する敬称の付けたくならなさは。

神様といわれても全然敬う気にならない。

まあ、俺は信心深い方じゃなかったけど。


「こいつが旦那の魔術に抵抗しただと……!」

「イヨル君の情操術って抵抗されたのにそこまで見えるもんなの……?」


あ、なんか驚いてる方向は違ったらしい。

しかし、なんだな。

評価してもらえるのは……そんなに嬉しくないけれど、このノリで「勇者になっちゃえよYOU!!」とか言われたら困るな。

俺は皿洗いぐらいしかできないのだよ。


「魔術を炎にたとえるなら不燃体に近いな……憶測でモノを言うのはイヤだがいくつか仮説はある。」

「……仮説、ね」

「はっきり言えるのはそうでもないと生きていけないのだろう。不活性で連鎖性がある……この世界の魔力は非常に独特だぞ。火がつきにくい癖に一度つくと一気に周囲に燃え広がる。これぐらいの抵抗力はないと生き残れなかったのだろう」


…………なんのことかよく分からない。

ラノベは年相応に読む方だと思っていたけどまだ足りなかったのか。


「正直、こうして相対してみても全くなにも見えない。これに魔法がかけられるとしたら神霊クラスだけだろう」

「……」

「……えっとどういう事ですか。俺は皿洗うしかできませんよ」

「「それは分かってる」」


今度はジャイニーブさんとイヨルさんの二重奏。

結構仲良しだなあこの二人。


「魔術を使うまでもない。お前の戦闘力は俺と変わらん」

「エルードにいる中じゃ確実に最弱だな」

「……左様ですか」


嬉しいような悲しいような。


「……まあ、これで僕が彼を呼びたがっていた理由は分かったと思うんだ」

「精神干渉に絶対に抵抗するからか。邪神に操られる可能性のある一騎当千よりも操られない皿洗いの方が良いというわけだな」

「そういう訳じゃないけどさ……ガラン世界にとっても有用なサンプルだと思うんだよね彼」

「……」


ジャイニーブさんが殺気だった目で俺を見た。

心臓が凍り付くような恐怖。

もし、ジャイニーブさんのもふしっぽがいらだたしげに床を叩いているのが見えなかったら俺は気絶していたかもしれない。

偉大なるもの、汝の名はもふしっぽである。


「もちろん護衛役の君の負担が増える事になるからその分のフォローは任せてくれたまえ。仕事の割り振りは僕の十八番だ」

「……具体的にどうなるか聞いても?」

「ジャイニーブ君が外れるときはこっちで代わりの人員を手配するよ。ジャイニーブ君が外れたいと言うときも同じだ。仕事中以外は面倒見なくてもかまわないよ――そうしたければね」

「……」


ジャイニーブさんは考え込んだ。


ふむ、イヨルさんは俺と同じくらいの強さなんだっけか。

千里眼使い――だったか。

さっきまでの会話と併せて考えると眼力に特化した後方支援役って所かな。

となると、物理的に俺を守ってくれるのはジャイニーブさんになるわけで……そりゃあ警護対象が増えるのは御免被りたいだろう。


ジャイニーブさんの実力はよく分からないが狼の獣人ってだけで強そうである。

判定球というアイテムがジャイニーブさんのポケットから出てきた事も見過ごせない。

あのたくさんあるポケット全てににそういうマジックアイテムが入っているのだとすると……うん、強そうだ。


「……休日はどうなる?」

「彼も豊蘆原に帰すよ。今まで通り休暇を楽しんでかまわない」

「聞いてないんすけど!?」


え? え? え? 

俺週末の度にこっち戻るの?

マジ聞いてないんですけど!?


「それについては謝罪しよう。俺の魔道具――アミュレットは繊細なのでな。定期的に元の世界に戻ってメンテナンスをする必要があるのだ」

「エルードには武具や魔道具の製造・メンテナンス用の職人まで養える余裕はなくてね。勇者様達も定期的に元の世界に戻って武具防具の手入れをしてもらってるよ」

「マジで……」


お、俺の知ってる異世界召還と違う……。

あ、いや週末の度に異世界にトリップしてみたいな話は読んだな。

その逆バージョンと思えばいいのか。


「僕は戦闘力はほぼゼロだし用兵の才もないし、魔法も使えないけど出入界管理みたいな事務仕事は得意でね」

「うむ。さしたる混乱もなくこれだけの事を成し遂げるその才は尊敬に値する」

「てか、魔法使えないんだ……」


てか、得意なのが事務仕事なのか……なんでコイツ神になったんだ?


「……良いだろう」


ジャイニーブさんが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

心なしかもふしっぽも腹立たしげである。


「コイツの面倒見てやろうじゃねえか。もちろん――」

「追加の報酬に関してはちゃんとガラン側と交渉しとくよ。任せておいてくれ」

「誤魔化したら――殺すぞ?」

「本気でやりそうで怖いね君は」


こうして。

門上御影の就職は前途多難な感じで決定した。

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