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イヨルの休日


――デフォル世界キウダ星。


デフォル世界に20ある有人惑星。

その中の一つがキウダ星である。

人口わずか五〇〇人。

それがキウダ星の限界可住人数。

不毛の大地とほんのわずかな湿地が養えるのはそれだけだ。


20の惑星に500人ずつの一万人。

それがデフォル世界の全人口である。


 * * * 


「イヨルか」

「ああ、イセルか」


――デフォル世界では発話すると言うことはかなり珍しい。

種族特性として情操術が使える彼らは大抵のことが「言わなくてもわかる」からだ。


デフォル人が声を出す。

そのイベントは限られる。

大きいものは二つ。

誰かが死ぬときと――誰かが生まれるとき。

今回それが後者であることに安堵するほどにはデフォル人は「人間」だった。


「キズカとリエルの子か」

「お前の孫だな」


そう言われて、イヨルはかすかに笑んだ。

キズカ・キウダ。彼の娘である。


――デフォル人の生殖は独特である。

かつてリューイは卵生人類と称したがそれは適切ではない。


デフォル人の卵は神より下賜されるのだ。


 * * * 


デフォル世界は収縮型世界だ。

世界そのものが縮んでいく。

魔力そのものが枯渇していく。

邪神ですら存在し得ないといわれた不毛の地。


――出来損ないの欠陥世界。


それをなぜか創世神ガデル様は拾い上げ守ろうとしたのだ。

自壊するだけが定めのこの世界を、なぜか。


いや理由など良い。

確かに神はこの壊れかけの世界を救ってくださった。

ならば、最大限の奉仕をもってそれに報いるだけである。


神が死ねとおっしゃるなら死ぬし。

生まれよというなら生まれる。

すべては神の御心のままである


それ故、デフォル人の生殖には神が大きく関与する。

いや、むしろ根幹はガデル神自らが作っているといっても過言ではない。


それぞれの有人惑星に一つだけある白い家。

その一角にある卵の間。

そこに突如として現れる50cmほどの真っ白な卵。


――それこそがデフォル人の基である。


 * * *


そもそも情操術とは。

神の言葉を聞くための技術である。

欠陥品の世界を維持するために消耗しきったガデル神の囁きを聞き漏らさないようにするための技術。


ならば術式介入とは。

デフォル人を作るための技術である。

なにも決まっていない、白紙の卵に個人としての個性を書き込んでいくための技術。


あの卵はなにも書き込まれなければ「天使」を産む。

そこに神より指名された二名が「親」となって人としてのバイアスを書き込み「人たる存在」につなぎ止める作業。

それがデフォル人の「生殖」である。


天使を悪魔に、悪魔を天使に書き換える究極絶無の眷属殺し。

自分たちが当たり前にやっていることがそういうものだと気づいているデフォル人はまだいない。

きっと絶滅するまでいないだろう。

今日も今日とてデフォル世界は平和である。


 * * *


「しかして、なかなかに奇異なことを仰られる……」

「確かに。アミュレットを外すなとな……」


イヨルとイセルは首をひねる。

以心伝心を体現する彼らがそんなことをする必要は一ミリもないのだがそうしたくなるほどに今回ガデル神がもたらした託宣は奇妙なものだった。


イヨルの体にはめ込まれたアミュレット。

この神具には様々な機能が備わっている。


もちろん基本は魔法陣として使うものなのだが、それ以外にも「高濃度魔力に対するフィルタ」や「肉体の物理的強度の調整」などの役割がある。


その中の一つにして異彩を放つのがが「性格の付与」である。

装着したデフォル人の感情的アウトプットをねじ曲げてより明確な個性を与える機能とでもいうか。


元々デフォル人にはそこまで明確な個性がない。

性格・容姿・能力……大体どれも一緒である。

エルードに派遣される勇者を決める際唯一くじ引きで決めたのがこのデフォル世界だ。


そしてそれに困ったのが他の世界の勇者たちだ。

誰が誰だかわからないのである。

無論、デフォル人の能力がありふれたものならそれでもよかったのだが、残念ながら情操術にしろ術式介入にしろ突出したオンリーワンであった。


そこで、ガデル神がアミュレットに追加した機能が「性格の付与」。

「皮肉屋」「ガテン系」「わんこ系」「根暗」「俺様」「敬語」「ヤンデレ」などの七種類のキャラがランダムに付与される。

一回付与された性格は勇者任務が終わるまで変わらない。

まあ、イヨルが「皮肉屋」枠なあたりでキャラの濃さは推して知るべしなのだが。


ちなみにその直前まで金太郎飴状態だったデフォル人が一気にキャラが濃くなったことに他の世界の勇者はビビりまくっていたのだがそのことに気づいたデフォル人は皆無であった。


それはさておき。


通常、よけいなノイズを防ぐため「卵」に介入する際はアミュレットを外すのが通例なのだが、今回は違った。

アミュレットをつけたまま「卵」に書き込めと託宣があったのだ。


「……案外、我らは滅ぶのかもしれんな」

「絶滅への布石と? めでたきことだな」


デフォル人は。

つなぎの種族だ。


真にこの世界に栄えるべき人類のために、世界を整えるべく作り出された半人半眷属。


しかし、此度の勇者稼業の報酬として莫大な魔力を手に入れることに成功した今、デフォル人を生かしておく意味は薄い。

無論、エルードの邪神が滅ぶまで絶滅させられたりはしないだろうが、滅びの時は近いと思っていいのだろう。


それでも。


「そうだな。めでたきことだ」

「ああ、実にな」


そういうデフォル人の顔には。

心からの微笑みが浮かんでいるのだった。

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