しっぽある!!!!!と彼は思った
「死んだ魚のような目をした男だな」
「ありがとうございます」
「……俺言い方間違ったか?」
「いや、合ってる合ってる」
――面接は。
こんな感じで始まった。
狼耳のお兄さんが討伐世界ガランから来た獣人――ジャイニーブ・アルデニガ・アルデニギさん。
ガラスみたいのがいっぱいはまってるのが協調世界デフォルから来たサイボーグ――イヨル・キウダさん。
だ、とのことだ。
二人ともイケメン、であるような気がする。
いや、美醜の基準なんて世界によるのかもしれないが。
少なくともジャイニーブさんの狼耳は毛並みがいい。
なんかカーゴパンツのようなポケットがいっぱいついたズボンとこれまたポケットがいっぱいついたベストを着ているのだが、一歩間違えば釣り人っぽくなるファッションを当人のワイルドさにより魚よりも凶悪なものを狩ってそうな感じにまとっている。
一方イヨルさんはシーツそのままかぶりました的なぞろっとした衣装である。なんだろう、古代ローマのトーガとイスラムのブブカを足して二で割ったような感じである。
粗末といってもいい服装だがどことなく優雅だ。
ちなみに俺は面接用にとくうが買ってきてくれたジャケットを着ている。
まあ、買ってきてくれたのがジャケットだけなので下がフツーのチノパンなのはご愛敬だ。
それはさておき。
現在、俺たち三人と一柱は高天原に来ている。
……どこかわかんねえよ。全くわかんねえよ。
とにかくドアを開けたら広がっていた白い不思議空間で面接中である。
「あなたが、門上御影ということでよろしいだろうか」
「はあ」
「ふむ……なかなかどうして堂々たる落ち着きぶり。さすがは選ばれし皿洗いなだけはあるということか」
なんかイヨルさんは感心しているが選ばれし皿洗いって何。
ホント何?
「まずは業務内容の確認からいこうか。あなたは我々と一緒に作業してもらうことになる」
「はあ」
「だいたいの片づけはこちらでやる。あなたにやってもらいたいのは各家で一点だけ指定できる『魔法非使用物品』の洗浄だ」
「……つまり皿とは限らない?」
イヨルさんは頷く。
「圧倒的に食器類が多いがな。変わったところでは馬具とかがあったが。衣類や美術品に関しては専門の作業チームがあるから心配しなくていい」
「基本的には皿洗いだよ」
といったジャイニーブさんは既に退屈そうである。
「まあ、皿といっても基本的には魔道具だからな。扱いには気をつけて欲しい。少なくとも洗剤や道具に関してはこちらで用意したものを使ってくれ」
「あ、これに関しては採用が確定した時点でパッチテストするからね」
「はあ」
パッチテストか……。
手回しの良いことである。
「で、確か我々と同居してもらうことになるんだったか」
「……はあ」
聞いてない。
聞いてないぞ俺は。
「あ、これ家の見取り図ね。ここの部屋が御影君のだよ」
「…………いや、聞いてないんですが」
「言ってないからね」
確信犯かよ!!
「いや、ちょっと考えれば分かるでしょ。君が一人暮らしして邪神の眷属が出てきたらどうするの? 死ぬよ?」
「……それもそうか」
釈然としないものもあるがそういわれてしまうと反論できない。
死んでもかまわないが――死にたいわけではないのである。
というか、絶対痛い。それはイヤだ。
「――俺は反対だ」
ぴこんと狼耳を立ててジャイニーブさんが言った。
やべえ。あの耳まじで触りてえ……・。
「こんな弱い奴いちいち守ってられるか。しかも皿洗うしか能がないときてる」
「いや、戦闘能力がないことは言ったはずだけどね」
「ここまで弱いと誰が思うんだよ!! イヨルの旦那とどっこいどっこいじゃねえか!!」
「……いや、それはお前というかガランの基準がおかしいだけだと思うがな」
なんか面接官同士で揉めだした。
そして俺は見てしまった……!
ジャイニーブさんしっぽある!!
なんかしっぽふさふさだよ!! やっべ、マジもふりてえ……。
「とにかく、絶対に必須ってわけじゃねえなら俺は反対だね」
「……イヨル君は?」
「ふむ」
いいなあ……流石に狼とか見たことないからなあ。
銀色の毛並みがマジかっこいい……。
かっこいいともふもふの奇跡のコラボレーションだぜ。
「……結論を出す前に一つ確認したいことがある。ジャイニーブ、判定球使ってもらっていいだろうか」
「はあ? こんなの白かライトグレーに決まって……………………」
あ~、頼んだらもふらせてもらったりとか出来ねえかな。
あんなつやつやな毛皮この機会を逃したらいつお目にかかれるかわかんないしなあ……。
せめて耳だけでも……無理かなあ。
「なんで……」
「やはりか」
「……いやここまでとは思ってなかったな」
玉砕覚悟で頼むだけ頼んでみるかあ……。
「おい」
「はい?」
おお、いいチャンス。
もう、だめっぽいししっぽさわらせてもらって帰ろう。
「……いったいお前は何者だ?」
「門上御影住所不定無職二十歳。唐突ですがしっぽ触らせてもらってもいいでしょうか!!」
「「「は?」」」
その感嘆詞は――実に綺麗な三重奏だったと後に語られる。
とにかく閉じかけていたように思われた門上御影就職ルートは新たな局面を見せ始めたのだった。