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味噌かぶりとか言ってはいけないと彼は思った


さて、飯田橋から戻った御影がまず真っ先にしたことは結局食べなかったおにぎりを焼おにぎりにすることだった。

パンは冷凍庫にて冷凍保存するとして、この焼おにぎりが御影の夕飯である。

梅雨入りはまだだが念を入れておくに越したことはない。


かくして御影は黙々とおにぎりを焼くのであった。


「……」


脳裏を過ぎるは今日の天照様との会談である。

まあ、そういうことなんだろうと思う。

天照様は御影の認識をねじ曲げるために――ああいう天然ボケみたいな振る舞いをしたのだろうと。


いや、いわゆるお役所における一太郎の生存率を考えるにもしかしたら一太郎ネタは素なのかもしれないが、流石に親指シフトはないだろう。ないはずだ。ないよね?

働いたことない門上御影はその辺結構曖昧なのだが、多分そうだろうと思う。


「……って、うわっと!!」


危うく焦げるところだったおにぎりを焼き網から救出し、次のおにぎりに入れ替える。

百均で買ったミニサイズの焼き網では全部を一気に焼くことが出来ないのだ。

救出したおにぎりには味噌を塗る。

御影は焼おにぎりは醤油派だがこうでもしないと味噌って使いきれない問題があるのだ。

とはいえふりかけで味付いてるし片面に薄くさっと塗るだけなのだが。

それをさらに直火でさっとあぶって終了である。


と、そこで背後に気配。


「……御影さん、おにぎりだけは流石にバランス悪いですよ?」


ご機嫌斜めな元ハローワーク職員、くうさんが立っていた。


 * * * 


野菜不足で困ったら冷蔵庫の野菜を具だくさんの味噌汁にすればよいと古来より決まっている。

まあ、御影の場合冷凍庫の方が野菜が多いのだがまあそれはよしとして。


「つーか、さあ」

「なんでしょう?」

「俺、いい加減動かないと殺される感じ?」


焼おにぎりを焼き終わり。

ごそごそと冷蔵庫で野菜を見繕いながら御影は話す。

どうしても野菜は日持ちがしないので週二日しか此処にいない単身者としては保存に苦労するのだ。


「……なんとも言えませんね」

「その心は?」

「八百万といいますからね。高天原の神々が一枚岩であることは絶対にないので。特にそのあたりの話は賛否入り乱れてますよ」


とりあえずキャベツとネギは確定だな。

半額セール時に買った冷凍のほうれん草の解凍方法をチェックしながら御影は思う。


ーー結局のところ、食べなければ生きていけないということを門上御影はよく知っている。

そういったことをおろそかにして殺されるか殺されないかの話をしても何も意味がないことを――よく知っている。


「……なるほどね。天照様的には半々な感じなんだ?」

「六四ですかね。生かす方が六の方の」

「……なるほど」


だしにこだわらない御影はじゃこと削り節を投入。

これはだしを取った後そのまま具にするズボラ仕様である。

味噌を網でこすのがこだわりと言えばこだわりか。

……意外と調理器具を買い込んでしまったなと思う。


「……個人的には気にしすぎない方がいいと思いますけどね」

「ほわい?」

「おそらく御影さんが想像してるのの五十倍ぐらいの一枚板じゃなさ加減なんで。誰であっても、どういう状況であっても、一柱ぐらいはその人の死を望んでるものです」

「さいですかい……」


いや、それヤバいんじゃね?

そう思いつつ野菜を投入してかき混ぜる。

キャベツは葉の部分だけなのでそこまで煮込む必要もないだろう。


しかしまあ。

くうさんの言うことにしても「状況がこのまま動かなければ」の話であって。

御影がゴンの制御を失ったり力を与えるようなことがあれば即座に処分なのだろうというのは多分確定事項だ。


ならば。

ならばならばならば。

ここで動いておくのはむしろ必然ではないだろうか。


少なくとも門上御影は門上御影の精神をそこまで信頼してない。

いつまでもゴンにデバフをかけ続けられるとは思っていない。


「って、おおっと!!」


あやうく沸騰しかけた鍋の火を止めお椀に移す。

焼おにぎりは既に皿の上だ。


つまりは夕飯の完成である。


本日のメニュー、味噌味の焼おにぎりと葉物野菜の味噌汁。

……味噌味かぶりとか言ってはいけない。


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