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番外:はじめてのおつかい2


(へんなやつがいるのだ……)


さて、あてもなく飛び出した系にゃんこリン。

勢いで飛び出したまま行き着いたは厨房であった。


リンにとって大抵の勇者は変な奴である。

なにせ基準が御影だ。

あの弱くて弱くて弱い住所不定無職と比べれば大概の勇者は変な奴。

これはもう確定事項である。


いや――確定事項だったというべきか。

ゴンを押さえ込んだことで御影の評価はかなり上がった。

その特異性に関しても――今までとは異なる評価がされるようになった。


此処にいるのは邪神を倒すために集まった勇者とスタッフのみである。

ならばどういった形であれーー邪神にダメージを与えられるなら。

それは評価されてしかるべきなのだ。


少なくとも、現状邪神に対してアドバンテージがとれているのは御影がゴンを押さえ込んだからというのも大きいのだから。


それはさておき。


「おや、メリュー様じゃねえですかい? こんなところへどうしました?」


今回の「へんなやつ」は怪盗ガレディーテだった。


 * * * 


門上御影――いや豊葦原人全般に言えることだがその魔法防御は「神が神として振るった力」には無効である。

流石にセキュリティ的にそこは死守せねばならないのだ。

豊葦原の神々はそこまでの自由を人間に許してない。


それは逆に言えば「人が人として振るった力」に対してはほぼ弾けるということ。

この三ヶ月でそれは全勇者周知のことととなった。


ならば。

なぜ。


この男の「取り替えっこ」だけが効果を発揮するのか。


デドフォート世界の「超越者」。

それは何を意味する言葉なのか。



――ということを全く理解していないのがリンである。


ただただこのにゃんこは「へんなやつなのだ!!」と思うのみである。


無論、それは。


魔法神キーズ・ディ・リンガが眷属、メリュー・ディ・キーズ・ディ・リンガとして見たとき。

怪盗ガレディーテ――というよりデドフォート世界の「超越者」そのものが疑いようもなく奇妙な形をしているというそういうことなのだが。


それはさておき、ガレディーテを見たリンはとっさに物陰に隠れた。

とはいえ相手は百戦錬磨の大怪盗である。


「そんなところでなにしてるんですかい?」


あっさりと気づかれてしまった。

というかしっぽで持っていたスクロールがはみ出ていた。


「……でろにかをさがしてるのだ」

「デロニカの旦那ですかい?」


若干毛を逆立てながらリンは言う。

デロニカのことを忘れなかったあたりに三ヶ月の成長が見て取れる。


「……一応聞いときやすが、送りやしょうか?」

「やなのだ!!」


リン、素早いバックステップで距離をとる。

その俊敏性は流石アメショーをルーツに持つものであった。

そしてそのままふしゃーふしゃーと威嚇に移る。


デドフォート世界の超越者のみが使える「超越魔法」。

ガレディーテの「取り替えっこ」も含まれるそれは魔法神眷属として本能で嫌悪できるものだ。

不必要にかけられたいものではない。


故に。

この反応をガレディーテはあらかじめ予測していた。

それでも、思うところはある。


「じゃあ、デロニカの旦那こっちに呼びますわ。それなら良いでしょう?」

「……………ゆるしてやるのだ」


自力でのデロニカ探索が無理と悟ったリンは渋々頷く。

この辺の判断もこの三ヶ月の成果。

リンも流石に分かってきたのだ。

魔法神の眷属であるリンは高い魔法適正をもつがそれでも理解できないような特殊な能力を持つ勇者は数多いと。


 * * * 


「デロニカだ」

「へえ、ようお出でで」


デロニカがやってきたのは二十分後だった。

取り替えっこを使ったにしては時間がかかったのはデロニカが戦闘中であったからである。

もっとも境界エリアでの哨戒中の小競り合いで大したことはなかったのだが。

それでも戦闘が起きた以上交代に来たルーイックに引継をすませるまでは離れる訳にはいかなかったのだ。


「なんの用だ?」

「あー……言いにくいんですがねえ」


そういってガレディーテはちらりとリンをみる。

つられてデロニカもリンを見た。


丸くなって寝ていた。


「こちらの眷属様がですねえ、用があるってんですよ」

「……寝てるぞ」

「寝てますねえ」

「みかげ~……」


まあ、つまりは。

猫は結構飽きっぽいってことだった。


 * * * 


「どうしてこうなった?」

「いやあ、お昼がまだってんで干し肉あげたら『まんぷくなのだ~』ってうつらうつらと……」

「おい」


と、つっこんだものの。

デロニカとて悪いのはこの二十分でおねむになる系にゃんこだとは分かっている。

ちょっとは我慢しろよ。


とはいえ、そこは魔法神眷属。

迂闊に起こすのはためらわれた。

というか、絶対寝ぼけてなんかしでかすという確信があった。


「……旦那の魔法になんか使えるもんはねえですかい?」

「ある訳ないだろう」

「でさあねえ……」


そういうわけで。

起きるまでしばし待機ということになった。


「……お前はあの皿洗いとは親しいのか」


リンを見たままデロニカは言った。


「……まあ、あっしの『取り替えっこ』以外は弾かれやすからねえ」


余裕がある時運んでやったことは何度かありやすよ。

同じくリンを見ながらガレディーテは言った。


「ーーあれはどういう生き物なんだ」

「あっしの世界には結構いやしたぜ。魔法とも神とも一生関わらねえ人々ってやつは」

「……人間なのか。それでも」

「人間でさあ。まごうことなく」


視線が合わないままに言葉だけが交錯する。

無論、魔法神眷属から目を離せる訳がないというのが第一だが。

それだけではきっとない。


「まあ、これ作った爺様もそういう類で」


そういうとガレディーテは腰のナイフを鞘ごと引き抜いてデロニカに渡す。


「……ほう」


鞘からナイフを取り出したデロニカは思わず感嘆の声を漏らす。

神秘のかけらも介在しないただの鉄片。

ガレディーテが十六の時に小遣いで買ったそれだけのナイフ。


それはデロニカが今まで見てきた中で一番の業物だった。


「魔法が使えねえからって弱いとは限らねえって話でさあね。鍛え上げてきた技は――時に魔法を超えますぜ」

「……門上はそういう者じゃないだろう」

「いやあ、だからこそ恐ろしいと思いやすがね」


デドフォート世界で魔法が使える者はほんの二三割に過ぎない。

残りの七八割は一生魔法を使わずに生きる。

それでも。

それでも。

魔法の使えぬ誰かは平然と魔法を使える誰かを凌駕する。


それが階層世界デドフォート。

神が定めた階層に刃向かう者達の世界である。


だからこそ。

魔法が使えないということのたちの悪さをガレディーテはよく知っている。

良くも悪くも――奴らは強い。


「ああいうなんでもない手合いが一番たちが悪いんでさあ」

「ほう?」

「ああいう勇者でもなんでもない、何が出来るってわけでもない、どこにでもいるような奴らのせいで負けるって展開、あっしは何回も見てきやしたからねえ……」


うんざりという表情でガレディーテはリンの周りに結界を張る。

風系の遮音結界。

簡単なものだが、とりあえずこれでリンにこちらの声は聞こえない。


「――だから、あっしはとっとと始末しちまった方がいいと思いやすがね」

「……お前とあれは仲がいいんだと思っていたがな」

「あっしはマフィアのこそ泥ですぜ。そんな上等な倫理観期待されても困りまさあ」


怪盗ガレディーテ。

デドフォート世界唯一市井で育った超越者。

なぜ、育成環境としてマフィアが選ばれたのかガレディーテは知らないが、そう育てられたのならそういう風に生きるだけだ。

ファミリーに仇なすものは皆殺し。

それがガレディーテの根幹である。


「まー、生かしといてもあれはどっちみち向こうの神に殺されるんじゃねえですかね」

「それは……あるだろうな。そもそも、この勇者召還がおわって何人の勇者が天寿を全うできるか……」

「何人かは神なり眷属なりに格上げされるんでしょうがねえ……」


邪神を倒すに至った力の持ち主など結局は危険分子でしかない。

王にとっても、民にとっても――神にとっても。


無論、ガレディーテとて十中八九死ぬ。

マフィアに忠誠を誓う超越者などデドフォート世界には不要である。

製造理由であるこの勇者召還が終わったら廃棄されるが運命だ。

まあ、市井で育った自分が今更超越者サマ出来るとも思わないのでガレディーテもそれで良いとは思っているのだが。


結局力があるとはそういうことだ。

そしてただの皿洗いではなくなった門上御影もまた――そういう世界に足を踏み入れた。


「……おい、猫が寝返りうちまくってるぞ」

「そろそろ起きやすね。だんな準備は良いですかい?」

「問題ない」

「結界解除しやすぜ!!」

「にゃむ~、おきたのだ~……みかげ……」


ねむねむと顔を洗う寝ぼけ眼にゃんこ。

これだけなら実に心和む光景ではあるのだが……徐々に剣呑な顔つきになるリン。


「みかげがいないのだ!! みかげはどこなのだ!!」

「……おい、完全に寝ぼけてるぞ」

「来やすぜ!! しっかり結界張ってくだせえ!!」


しっぽのあたりで渦巻いた魔力は鮮烈なる赤。

久方ぶりの火炎放射器にゃんこ降臨である。


「みかげをかえすのだー!!!」


ゴオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!


――放たれた炎を無効化出来たのは奇跡に近いとかなんとか。


とにかく、ようやく覚醒したにゃんこをなだめて後かたづけが終わったときには日がとっぷりとくれていたとさ。


そして、火炎放射器事件でスクロールは燃えて灰になってしまいお使い失敗となったリンはしばらくぶーたれていたが同情する者は皆無であった。


「ひどいのだー!! たたかうのだー!!」

「「「無理」」」

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