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番外:はじめてのおつかい


「いやなのだー!! リンもたたかうのだー!!」


じたばた。じたばた。

魔法神が眷属メリューの皇太子リン。

最近のマイブームは戦闘であった。


流石に生後三ヶ月ともなると狩猟本能が疼くらしい。

今まで眷属に会ったら逃げていたのを取り返すように戦うのだーコールである。


「いーじゃねえか、戦わせとけよ」

「いや、そうもいかないから!!」

「まあ、ジャイニーブからしたら戦える者が戦わないのはあり得ないからな……」


そう。

先頃ようやっと邪神を駆逐したガラン世界から来たジャイニーブからしてみれば対邪神戦など総力戦が基本。

八歳の子供だろうが六十の老人だろうが人だろうが神だろうが半神だろうが区別なく老若男女全員であたるのは基本中の基本である。

戦える者に剣を。戦えぬ者に死を。

それがガラン世界である。


「そりゃ、ジャイニーブ君からしたらそうだろうけど、僕からしたらそうもいかないんだよ」

「ふむ、なるほどな……」

「……イヨル君はなんでも納得しちゃうよね」

「現状、戦況は優位に進んでいるからな。勝った後のことも考えねばならないということだろう?」

「……その通りです、はい」


現状、戦況は実に優位ではある。

邪神を駆逐可能と考えても良いほどに。


しかし、リューイとしてはそこで喜ぶわけにもいかない。

リューイ・ディ・エンクは元は人間の神である。

つまりそもそもがこの対邪神戦線を支えるためにスポット要員として神の末席に加えられた、いわばパートタイマー。

この戦争が終わった後どういう処遇になるかはこの段階での対応が左右すると考えていい。

対応を間違えれば――存在丸ごと消滅してもおかしくない。


「……この邪神戦は元々予言されてたんだっけか」

「そう。600年以上前に知恵の女神リンガにね。僕もキーズさんもそのために呼ばれた存在だ」

「ガラン世界に支援の手を差し伸べたのも、後々救援を得やすくするなんだろう?」

「まーね。600年かけてあちこちの世界に恩を売り話を通し、新たな神々を迎え入れ、出来る限りの手を打ってこの日を迎えたわけだ。」


そういう予言だったとリューイは聞いている。

「どうあがいたところで――現戦力では勝てない邪神が出現する」と。


それ故の――人間を神の座に引き上げるという奇策。

それ故の――ほかの世界に助けを求めるという奇手。


「……なら、それこそ総力戦だろう。戦わせてもいいじゃねえか」

「いやあ、だって、メリューってキーズさんの眷属だもん。僕、キーズさんに喧嘩売りたくないよ」

「なるほどな……」


契約神リューイ・ディ・エンク。

魔法神キーズ・ディ・リンガ。


人間から神の座に成り上がったこの二柱はいわばパート仲間。

手を組めるなら手を組んで労働組合でも結成したい間柄だ。

無論、必要があれば蹴落とすことに躊躇はないが――必要がなければ。

手を組むことをためらおうとは思わない。


そういった意味で。

キーズ神が直々に三語神相当と定めたお気に入りの眷属が自分の判断ミスで傷つくのは避けたいリューイである。


あの、言葉が通じてるんだか通じてないんだか分からない系マッドウィザードとは手を組む以外の関係性などごめんである。


故に。


「はなしおわったのだ? なら、たたかいにいくのだ!!」


とか張り切りまくりの子猫にはおとなしくしてもらわなければならないのだ。


「……お前の考えてることはよくわからんがろくでもないことなのは分かった」

「とにかく、キーズさんに喧嘩売りたくないってだけだよ」

「リンのはなしをきくのだー!!」


じたばたしてる子猫は置いといて。


「というか、そもそもリンは戦力なのか?」

「それもあるよね……」

「まあ、魔力の潤沢さは折り紙付きだが……」


という問題もある。


ここ三ヶ月で急速に魔力量と魔法技術が向上したリン。

このあたりは魔法神直属の眷属の面目躍如である。

ただ、まあ、なんというか。

中身はまんま三ヶ月である。


「邪鬼の類なら問題なさそうではあるが……」

「問題は吸血鬼だよねえ……。流石に邪龍は相手に出来ないとしても」

「頭使ってくる敵にはころっと騙されるタイプだよなあこのチビスケ」

「そんなことないのだー!!」

「「「ある」」」


断言である。

むしろ断言以外の何をしろというのか。


「そもそも飼い主?の御影からしてころっと騙されるタイプだからな……」

「御影君のあれは善良とか愚鈍とかそういうのよりも命のやりとりが遠すぎるだけだと思うけどね。だからこそゴンをあそこまで封じ込めていられるんだろうし」

「そりゃそうだ。俺には絶対ああいう発想は出てこねえ」


命のやりとりが遠いということ。

神秘・神霊が遠いということ。

そんなものでさえーー強く使える局面はやってくるのだということ。


アルデニギ(誇り高き狼)としては考えさせられる話だった。


それはさておき。

目下の問題はこのやる気満々にゃんこである。


「……うーん、じゃあ、ちょっとおつかいしてみようか」

「おつかいなのだ?」

「ちょっとこのスクロールをデロニカ君のところに持って行って欲しいんだよね」

「でろにか?なのだ?」

「そう。刻印世界ガーフィールのデロニカ君だね。真っ黒い人だよ」

「ふむ、あいつか」


刻印世界ガーフィールの勇者デロニカ。

トラップ系・マイン系に強い魔法使い。

事前設置型の魔法をよく使う関係上イヨルらデフォル人とは関わりが深い。


というか。

結局、未だに「隠れる」という概念がよく分かっていないデフォル人のために「隠れやすそうなところ」に片っ端からマーキングしてくれたのがデロニカである。

これによりデフォル人の哨戒制度が向上。

なんとか哨戒兵器の地位をキープすることが出来たのだ。

デフォル人からしてみればひとかたならぬ恩のある相手である。


それはさておき。


「分かったのだ!!」


スクロールを受け取ったリンは元気よく駆けだした。

そのスピードたるや疾風の如し。止めるまもなく姿を消したリンを見送りつつジャイニーブは呟いた。


「……おい、あいつデロニカがどこにいるか分かってんのか?」

「言う前に行っちゃったね……」

「確実に分かってないな」


確実に。

デフォル人が断言した以上それは確実なのだ。

つまりわかってない。


――こうして。

リンの初めてのおつかいは前途多難な感じに始まったのだった。

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